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四十一話 運命論者の悲み ページ42

「ここは……」




芥川と遭遇した一件の後、敦は社の医務室で目を覚ました。

そんな敦に、国木田が声をかける。




「気づいたか。全くこの忙しい時期に……」




敦のすぐ横の椅子に座っていた国木田。


敦はスッと体を起こすと、片手で顔を抑えた。




「僕、マフィアに襲われて、それから……」




そして、何かを思い出したのか、バッと勢いよく起き上がる。




「そうだ。谷崎さんにナオミさんは!?Aちゃんは無事なんですか!?」


「無事だ。谷崎は隣で与謝野先生が治療中。Aは無傷」

「ギャアアアアアア」




敦の質問に答える国木田。


しかし、国木田が答えた後すぐ、隣の部屋から大きな悲鳴が聞こえた。




「治療中……?」




その悲鳴を聞いた敦は、困惑したような表情でそう聞き返す。


しかし国木田は、それを気にすること無く話を変えた。




「聞いたぞ小僧。七十億の懸賞首だと?
出世したな。マフィアが血眼になるわけだ」




そう言った国木田に、敦は路地裏での出来事を思い出す。

そして事の重大さに気づき、敦は突然焦ったように言った。




「そうです!どどどうしよう!
マフィアが探偵社に押寄せてくるかも」

「狼狽えるな」




とても焦っている敦に、国木田はしれっとそう返す。

そして敦を落ち着かせるように、国木田は敦に言い聞かせた。




「確かにマフィアの暴力は苛烈を極める。だが動揺するな。動揺は達人をも殺す。師匠の教えだ」




パラパラと手帳の頁をめくりながらそういう国木田。


しかし敦は気づいていた。

国木田の持つ手帳が逆さになっていることに。


敦は申し訳なさそうにそのことを国木田に伝えた。




「あの……手帳さかさまですよ」




その言葉に、国木田は沈黙した。

おそらく気づいていなかったのだろう。


国木田は少しの沈黙の後、静かに手帳の向きを戻し、何事もなかったように手帳に目を落とした。


敦はその国木田の様子に、緊張しているのだと察した。


そんな敦の思いが伝わったのか、国木田は焦ったように敦のベッドに身を乗り出す。




「俺は動揺していない!マフィア如きで取り乱すか!仮令、今ここが襲撃されようと、俺が倒す!」




そうくわっと叫んだ国木田。




「あれをこうしてこうばしっと動きいい感じに、ぐっとやって倒す!」




今度はそんなふうに意味のわからないことを言い出した。


そんな国木田の様子に、敦は一人冷や汗を流すのだった。

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作者名:ark | 作成日時:2021年1月4日 18時

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