ボカロ曲を小説にしてみた〜第１弾〜

人柱アリス　-華奈さんリクエスト- ページ48

「…ここは、どこ？ねぇレン、起きて」
「ん…A姉さん？」

姉さんと呼ばれた少女は、隣で倒れていた少年を呼び起こす。
二人はよく似た髪の色、瞳を持つ、双子だった。

そんな二人の前に、黒い影が現れた。

『やぁ、お嬢さん方。僕の世界へようこそ』
「…アンタは誰？」

気の強い姉は、その影を容赦なく睨む。
その影は、ゆっくりと二人に近づき、朗々と、まるで物語を語るかのように喋りだした。

しかしその声は、聴覚ではなく、脳内に直接響いているかのような、不快なもの。

『ねぇ。ひとつ、昔話をしようか』
「イヤよ。それより、ここはどこなの？」
『まぁまぁ。そう逝き急いでいては、つまらないだろう？』
「…逝き急ぐ？」

賢い弟は、その微妙なニュアンスの違いを感じ取る。

「生き急ぐ」と、「逝き急ぐ」。
その影が口にしたのは、間違いなく後者であった。

『聞く気がなくても、聞いてもらうよ。まずは、一番目アリスのお話』

嫌と言っても、脳に直接入ってくるその声。
耳を塞いでも、意味がない。

『一番目のアリスは、勇ましく強い姫だった。
彼女は剣を片手に、不思議の国の全てを切り裂いて進んだ。
そんなアリスは、今はこの森の奥深く。
罪人のように、閉じ込められてしまった。』

『二番目のアリスは、大人しく優しい王子だった。
彼は歌が大好きで、歌い続け、その不思議な音と声で、不思議の国を狂わせてしまった。
そうしてそんなアリスは、いかれてしまった自分自身に撃ち殺された。』

『三番目のアリスは、幼い緑のお姫様。
その可愛らしい容姿で、国の人たちを惑わせた。
そんなアリスは、今や国の女王。
朽ちゆく体に怯えながら、毎日を過ごしているよ』

そこで、影が語る不思議の国の物語は途絶えた。

『四番目のアリスは、実は、ついさっきやってきたんだ』
「「……」」

双子の姉は、顔を強張らせて震える。
双子の弟は、冷静に姉に寄り添った。

『さぁ、四番目のアリスは、本物のアリスになれるかな？』

僕の、世界の中で。
僕が創った、不思議の国で。

本物のアリスになってご覧？

と。
そう、言った。

「何で、私たちなのよ…！」
『君たちが面白そうだったからさ』
「それは素晴らしく迷惑な話だね」
『でも、みんなに僕を見て欲しいんだ』
「分かったよ」

賢い弟は、影の、暗黒の瞳を見つめて。

「僕たちが、本物のアリスになってあげよう」


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