ボカロ曲を小説にしてみた〜第１弾〜

右肩の蝶　-激血死神リクエスト- ページ38

「っっ！！！！」

ガバ、と、起き上がった。
綺麗な暗い夜の中、迷子になって怖くなる夢。

紫の蝶々が、私を惑わす。

「…はぁ……」

部屋の隅を見れば、ピアノを弾くレンの姿。
よく彼が弾いている、不協和音が特徴の曲が、ピアスのついた耳を刺激する。

「…凄く、うなされてたけど。大丈夫？」
「…怖かった」

私がそう言うと、椅子から立ち上がって、こちらに来るレン。
肩には、紫の蝶々のタトゥーが妖しく乗っている。

そして、キスをする。

「大丈夫だよ」
「…うん」

大丈夫って、その言葉が、切ないのに。

些細なことで始まった恋。
君が私を本気で好きなのか、分からなくて。
でも、君は優しいから、どこが好きなのって訊いても、全てだって、答えてくれる。

それが私を不安にしてるなんて、思ってないでしょう？

「…レン」
「どうしたの、A？」
「ぎゅって、して」

両腕を差し出すと、レンは微笑んで私を抱きしめる。
私の歪んだ体を愛してくれるのは、あなただけ――…

だからね、狂いだした私を止められるのも、あなただけだと思うの。

「レン、ねぇ、私を、ころして」
「…何言ってるの？」
「殺して、一瞬で、ラクにしてよ」
「…じゃあ、舌出して」

私は素直に、舌を出す。
するとレンは、私の舌を噛んだ。

「っ…！」

段々と、噛む力が強くなる。
痛い…苦しい――！

「――っ…は、あ…！」
「うそ、殺さないよ」

げほげほと、咳を繰り返す。
至ってレンは、冷静な表情だった。

「苦しいでしょ？」
「っ……」
「俺には、Aが苦しまないような方法で殺すことなんてできないよ」

レンはそう言って、また、ピアノの方へ向き直る。
ぽーん、と、人差し指だけで、ひとつ音を鳴らす。

「俺たち、不協和音みたいだね」

そう言ってレンは、もうひとつ、隣の音を、中指で押した。
不協和音が響く。

「…そうかもね」
「でも、俺は好きだよ。不協和音」
「…そう」

心の傷口から溶け出したものは、愛情なのか、それとも、それ以外の何かなのか。

「レン、だいすき」
「俺も」

そうして今日も私達は、安物の愛を、鳴らし続ける――。


ＥＮＤ

深海少女　-いりごまさんリクエスト-→←ロミオとシンデレラ　-激血死神さんリクエスト-

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