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「へぇ、小桜あんずちゃん。あんずちゃん、でいい?」
確認のため、反復する。
彼女はまたこくりとうなずいた。
口下手、という憶測は間違っていないだろう、少し頬が赤い。
他人に慣れていないのか、それとも____。
「で、どうしたの?迷子なら僕が案内するけど」
「え、えと、その……。音楽室に、用が……」
「音楽室ね。お安い御用さ」
僕は歩き出す。
彼女は僕の数歩後ろをついてきた。
「ね、あんずちゃん。ここ来る前は共学んとこ通ってた?」
「えっ、いや、えっと……女子校、です……」
「女子校かぁ。じゃあしょうがないね」
「……?」
僕は後ろ向きに歩きながら、あんずちゃんの顔を見る。
いきなり後ろを向いたから彼女は驚いていた。
「男慣れ、してないでしょ」
僕が言うと、彼女は顔をリンゴのように赤く染めた。
図星のようだ。
しかし反応がいちいち面白い。
「アハハ、これからゆっくり慣れていけばいいよ____人との付き合い方も、ね。
最初は噛んでもいい。だから、せめて自分の意見はハッキリ言うようになろうね?」
あんずちゃんは言葉に詰まったようだが、少しうつむいて、うなずいた。
言い過ぎたか____自分の中で反省する。
「あんずちゃん」
僕は立ち止まる。
彼女も立ち止まり、「は、はい……?」と僕を見上げた。
僕はかがんで、あんずちゃんと目線を揃える。
「僕が、怖いかい?」
じっ、と彼女の目を見る。
彼女はまた僕から距離を取ろうとしたが、「逃げないで」と言い、それを制した。
数十秒もの沈黙が流れる。
外ではカラスたちが、気ままに「カァ」と鳴いた。
「____少し……。けど」
「うん」
「悪い人じゃない、と思います……。正しいことを、言っています。
私の改善点を、教えてくれました……。校内の案内も、してくれてます……。
わ、私は、柳葉先輩のこと……もっと、知りたいです」
僕は一瞬呆けたが、すぐに声をあげて笑った。
「アッハハハ、フフ……まさか、初対面の転校生に告白されるなんてね……クク」
「え、あ、ちが……っ!」
「分かってるよ。冗談、冗談☆」
僕はあんずちゃんの頭に手を置き、数回撫でまわす。
逃げられそうだったが、彼女は大人しくしてくれた。
「よく自分の意見を言えたね、偉い偉い。大きな進歩だね。
それと、僕のことは『A先輩』って呼んでよ____苗字は嫌いなんだ」
その要望を聞き入れてくれたのか、彼女はまたうなずいた。
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墨大蛇(プロフ) - 春斗さん» はい、ありがとうございます! (2016年3月7日 23時) (レス) id: 4010cde58c (このIDを非表示/違反報告)
春斗 - 更新頑張ってくださいね! (2016年3月7日 23時) (レス) id: c4a09d2157 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:墨大蛇 | 作成日時:2016年3月7日 23時