【降谷零】死ぬほど貴方が嫌いです、だから結婚してください【安室透】

--協力者-- ページ12

.

---------数年前



私の姉、浅見光は某国の工作員だった。

そしてどうやら彼女には様々なツテがあったらしい。二人で住んでいた自宅に置き去りにされていたスマートフォンには大量の連絡先が残っていた。


どれもアルファベット一文字で表記されていて、確認できるのは私の名前くらいだった。




｢………よかった。私の名前だ｣



数多の連絡先に埋もれていた"浅見A"の文字を親指でなぞって静かに独り言を漏らしていた。ぽたりと液晶画面に零れ落ちた涙を何となしに見つめる。

姉がわざわざ私をフルネームで登録した理由は、ぼんやりとだが察しがついた。



(お姉ちゃんは寂しがり屋だから、)



…どうして私に打ち明けてくれなかったのだろう。守秘義務があったとしても、せめて殺される前に全てを話して欲しかった。

抱えていた悩みを、話して欲しかった。




｢………降谷、零｣



残るのは、どうしようもない後悔と静かに込み上げる復讐心。あの男をこの手で殺せば少しでも楽になれるだろうか。……いや、なれないのだろう。


それでも私はやり遂げなければならない。たとえ間違っていると止められようが、必ず。



姉の遺品としてそのスマホを鞄に仕舞った刹那。玄関の方から扉が閉まる音が鳴った。

この家には私しかいない。警察の人間はとっくに捜査を終わらせているはずだ。…だとしたら、リビングへ近付いてくる足音は一体誰のものなのか。



｢……｣



キッチンに置いてある包丁を手に取り、ドアの向こうにいる"誰か"を見つめる。

姉は恐らく多くの人間に恨まれていた存在だ。わざわざ自宅を突き止めてやって来るなんて、相当執念深い人間なのだろう。



ドアが僅かに開いて、咄嗟に私は物陰に隠れる。




｢………｣




部屋に入ってきた気配を確かに感じて恐る恐るその人物を覗き見る。視界に入ったのは、高身長の男がギターケースのようなものを背負って部屋を見渡す姿であった。





｢……普通ならキッチンにあるはずの包丁がないな。それで俺の喉元でも掻っ切るつもりか？お嬢さん｣




ひく、と肩を揺らせば｢そこか｣と男が淡々と呟いた。段々と煙草の匂いが濃くなっていき、私は大人しく男に見つかることにした。






｢………お姉ちゃんならもういない。分かったらさっさと帰って。土足でこの家を荒らすような人間は大嫌いなの｣



自分でも驚く程に低い声が出た。そして男は初めて私を目にすると、やがて満足げに瞳を細めていた。

1 *変更あり→←8

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す