検索窓
今日:28 hit、昨日:150 hit、合計:710,031 hit

22 ページ24

*


『ーーーーーー……』

「……あの、」


『いや、あ、すまない。
えっと……出てくれたのが、嬉しくて』




いつもはペラペラと話し始める彼が
言葉足らずにぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。
直接的な言い方に思わず目を伏せた。



『セロリ、ありがとう。あと…番号も。
君のことだからもう会えないのかと思ってた』

「………」

『声が聞きたくてかけたんだ。
この後はまた登庁しないとだから…』




相変わらず彼に休みはないらしい。
今も車の中のようで、車や電車が
通り過ぎる音が時々彼の声を遮る。


………いつになく弱々しい彼の声に、泣きたくなった。




「…」









『………会いたい』





今度こそ、見開いた瞳からぽとりと涙が落ちた。




らしくない掠れた声が確かにそう言ったのだ。

決して私を引き止めるための言葉でもない。
昔から本音を話す時は、無駄な飾りを付けず
真っ直ぐな意志を口にするのを私は知っている。



スピーカーの向こうで彼は今
どんな顔をしているのだろうか。

行き場をなくした子供のような、
そんな表情をしているのだろうか。





「………っ、……」




気を抜けば泣いていることがバレてしまいそうで
必死に下唇を噛み締めた。ぎゅ、と目を瞑れば
眼に溜まっていた涙が数滴頬を伝っていく。


自分から彼を捨てたくせに、





『瑞沢さんって、ちょっと変だよね。
やっぱり親がいないからかな…』






(私が、まともだったら)





歪んだ家族しか知らない私が、
家族の愛を誰よりも求めていた彼を
幸せになんて出来るわけがない。




『……悪い。もう行かないとだから
切るぞ。…おやすみ』




待っていても私が返答する気がないと
感じ取ったのか、彼は少し残念そうに
謝ってから通話をプツリと切った。


淡々とおやすみなさい、なんて
喉が震えて言えそうになかった。






「………、……」




こんなにも彼がいないと、寂しいものなのか。

今まで当たり前のように彼が隣にいてくれて
ずっと傍で守っていてくれて、
いくら泣いても笑って頭を撫でてくれた。






「………会いたい……」




久しぶりに溢れた涙はぽろぽろと零れ落ちて
床に染みを作っていく。不思議と嗚咽は出なかったが
どうしようもない悲愴感が胸をずくんと痛めた。




大好きだから、一緒にいられない。









「ーーーーーーーー……泣いて、いるんですか?」





ソファに座り茫然と涙を流す私を
怪訝に見下ろした男と目が合った。

23→←21



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (543 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
1354人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

てな(プロフ) - まゆさん» わーありがとうございます!気づくの遅くなってすみません…!感動していただき嬉しみです(´∇`) (2019年3月10日 22時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
まゆ - 完結おめでとうございます^_^面白かったです^_^最後は、すごく感動しました!これからも、頑張って下さい^_^ (2019年3月7日 14時) (レス) id: 406c27ad01 (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - かずささん» ありがとうございます!結構端折ってた部分もあったので過去エピソードとか結婚後のお話を時間があったら書いてみたい!!と思ってます(゜▽゜) (2019年2月1日 23時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
てな(プロフ) - れいさん» ぴえありがとうございます〜!50話を超えてしまったので気が向いたら続編を作ってみたいなとか思っております… (2019年2月1日 23時) (レス) id: 46f0755694 (このIDを非表示/違反報告)
かずさ(プロフ) - 私も結婚後の生活の話が読みたいです!できるならお願します! (2019年2月1日 22時) (レス) id: 189adfe0dc (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:てな | 作成日時:2019年1月20日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。