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燭台の灯りを消すと、白い月明かりがあたりを代わりに照らした。きり丸は寝息をたててすっかり寝入ってしまっている。その向こうの、いつもこの時間ならまだ起きているはずの彼女からも、起きている気配が全くしない。きっと同じようにぐっすり眠っていることだろう。二人とも、あんなに泣いてしまったのだから疲れたのかもしれない。
さあ自分も寝ようと寝床に入り、瞼を閉じる。今日は色々なことがあったものだな、とふと考えた。Aという娘は──────着物を着れず、物の名前を知らないなど、生活の一般常識が驚くほど抜けている娘だ。そんな彼女を疑う気はきり丸と同様に私にだって、もとはさらさらなかった。彼女は普通の表社会の人間だと、自分の経験がそう告げていたのだ。
だが、彼女の銃に気づいた途端、その認識が少し揺らいだ。自分はともかく、幼いきり丸になにかあっては、と。そう考えてしまうと、武器の所持という危険因子を見逃すことは到底できなかった。だから、彼女を問い詰めた。彼女が毎晩魘されているのを知り、故に彼女にとって辛いことを思い出させてしまうことになると、わかっていながら。
結果として、彼女は完全に潔白だとわかっただけだった。正直内容は未来だの、アメリカだので完璧には理解できなかったが、彼女は嘘は吐いていないようだったし、そうでもないと彼女に関する何もかものつじつまが合わない。
そして何よりも決定的だったのは、逆に彼女が必死に親の形見を手放さまいとする姿だった。彼女は訴えた。両目から涙を溢れさせ嗚咽に耐えながら、うなじを晒して私達に頼み込んだのだ。どうかこの銃だけはと、痛々しく震える声で。自分も、そしてきり丸も......理不尽な両親の死を経験するというところで彼女と同じだったから、それこそ痛いほど彼女の気持ちがわかったのだ。
だからだろうか。
抱き合う二人を見て、自分も今すぐにこの二人をどうにかして抱きしめてやらなければならないと、感じたのだ。実際二人はひどく泣いていて、しゃくりあげる度にぽろぽろと形が崩れていくような繊細な飴細工だった。自分は思わず、その落ちたものをかき集める心地で、二人ごと腕に閉じこめた。話してくれてありがとう、と彼女に伝えるようにその細い肩を抱きしめた。彼女のこうして傷ついた心が、癒えればいいと思った。
次第に眠りに落ちる感覚を感じながら、私は願う。
願わくば、彼女が心安らかでありますようにと。
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作者名:らいらん | 作成日時:2018年6月8日 22時