F 8 ページ8
「…がや？
藤ヶ谷？」
北山の声で意識が違うとこにいっていたことに気付く。
「え？！」
「だから、呑み物」
既に店員さんが来ていて、後は俺の呑み物だけ伝えるようだった。
やばっ…
メニューを開くだけ開いて、北山に見惚れてたなんて、言えるわけない。
「えっ…とぉ…」
「俺、決めるよ？」
「あ、うん」
迷う俺に北山が一言。
キングの名が廃る。
ダメダメだ…。
注文後、２人になると
「藤ヶ谷、緊張してんの？」
と意地悪く笑われた。
「違っ…！
なんで俺が緊張するの」
「だって、さっきから目が泳いでる」
「なわけ、ないだろ」
「個室じゃない方がよかった？」
「いや」
個室がよかった…
２人になれるから…
なんて、言えるわけない。
「想像と違う店だから、色々見回してたんだよ」
格好悪い言い訳。
くくくっと笑い
「なんか今日の藤ヶ谷、可愛いわ」
不意打ちの“可愛い”に顔が熱くなる。
「失礼します」
襖が開いて会話が止まる。
よかった。
今の可愛いには、どう反応していいかわからなかった。
北山に可愛くみられたのは、なんだか嬉しくて。
でも、可愛いよりもカッコいい俺を見せたかったなとか思ったり。
机に置かれた料理とお酒。
え？お酒…
店員さんが下がると
「今日の藤ヶ谷は可愛いから、これだな」
俺の前にはピンクの可愛いお酒。
「俺はビールだけど、藤ヶ谷はビールよりこっち派だろ？」
と、ビールを持ち乾杯を促してくる。
「じゃ…ピアス、見つけてくれてありがとう。
乾杯！」
ビールとカクテルがぶつかる。
「はぁ〜！うまっ！」
本当に美味しそうにビールを飲んでる北山に頬が緩む。
俺もカクテルを一口。
甘くて美味しいな、これ。
「北山、これって？」
「ピーチ レディ だって。
たいピーチだし、可愛いもの好きな藤ヶ谷に合ってるだろ？
俺には甘すぎるけどさ」
「ん、美味しい」
「よかった」
ニコッと笑う北山に胸の高鳴りが抑えられない。
「呑みやすそうだけど、白ワインベースだし、ガブガブいくなよ？
藤ヶ谷、弱いじゃん」
メンバー皆と呑む時でさえ、あまり絡まない俺たち。
なのに、俺がお酒が弱いことや
ビールよりカクテルを好むこととか、
知ってくれてるんだ…。
熱いものが込み上げてくるけど、押し殺す。
北山の笑顔が眩しい。
俺だけに向けてくれてる。
勘違いしてしまいそう。
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作者名：咲良
| 作成日時：2017年8月11日 1時
