君に会うため【地縛少年花子くん】 (ページ29)

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普くん　其の弐ページ29

そっと目を開けた。
夕闇に包まれた教室で普くんが風に髪を揺らしていた。

――上手く、いった。

ほう、と小さく安堵の息を吐く。
過去と茜くんに感謝、と心中で呟いて足を踏み出した。

ぐるりと辺りを見渡す。
黒板には月の絵が描かれていて、日付は七月十日になっていた。前に来たときから一週間ほどが経っている。

こつり、靴音は思ったより大きく響いて、普くんは驚いたように振り返る。
大きな瞳が、私を捕らえて。

「この間、の」
「久し振り、普くん」

敦賀さん、と私の名を呼ぶ普くんにひらりと手を振った。

「また来ちゃった」

前は挨拶だけだったからね、と続けて普くんの前の席に腰を下ろした。

「敦賀さんはここの生徒じゃないよね？」

どうやって入ったの、と問う普くんに秘密、と答えて。
普くんは訝しげに眉をひそめた。

「何しに来たの？」
「ちょっと話したいと思って」
「俺のことも知ってた」
「私は何でも知ってるから」

そこまで会話を続けて普くんは黙り込む。
じっと私を見据える普くんに小さく笑う。

「私ばっかり知ってるのもフェアじゃないよね」

ちらりと時計を見る。
制限時間は、三十分。既に五分近くが経過していた。

――早いな、もうそんな時間か。

私は精一杯の笑顔を浮かべて普くんに向かい合う。