49episode ページ49
’
寒くて冷える、夜の事だった。
Aから、会いたい。と連絡が来たのは
｢A……！｣
指定された場所まで急いでバイクを走らせれば、噴水の近くのひっそりとしたベンチに、Aは同じくひっそりといた。
｢あ、灰谷君！｣
夜遅くに呼び出されたからなんかあったのかと不安に思っていたが、意外にも上がったAの顔は明るい
そして俺の名を呼ぶ声、表情で分かった
Aだ、と。
｢ごめんね、こんな時間に呼び出して。
でも聞いて、なんか今日ね、突然記憶が戻ったの！｣
嬉しそうに話すAだが、それはアルツハイマーを患った人間にとって珍しいものではないらしい。
蘇った記憶も永久的にではない。
一過性のもの。
勿論頭では分かってる。
｢待たせてごめんね。ただいま、灰谷君！｣
そのただいまも、きっと明日になったら儚く消えてしまうことだって、十分分かってるんだ
｢遅せぇよ……おかえり…っ｣
でも、喜ばずにはいられなかった
一瞬でもAは俺に喜びをくれた。
生きる喜びを。
｢もうね、何も怖くないんだ。全部覚えてるから！
灰谷君がどーてー卒業したってことも、パグのブルドッグを飼ってることもグリンピースが苦手なことも！｣
ね、凄いでしょ？と首を傾けたAを、俺は壊す勢いで抱きしめる。
すごい。よく覚えてたな。というお褒めつきで。
｢灰谷君、私の事好き？｣
｢あぁ、好き。すっげー好き｣
｢10年後も、11年後も、12年後も好き？｣
｢おい、俺の気持ちだけ思い出してないのかよ｣
なんだな照れくさかったけど、好きに決まってんだろ。と我ながらクサイ台詞を吐けば、Aは心底嬉しそうな顔を浮かべた。
｢あのね灰谷君、私、明日誕生日なの｣
｢え、そうなの…じゃあ、祝いに行く｣
｢ふふ、嬉しい…｣
ぎゅう、とAの腕の力が強くなる
｢なんか、夢でも見てるんじゃないかってくらい、嬉しくてふわふわする…｣
｢ふわふわ？｣
｢うん…｣
目を瞑るAの耳に触れたら、氷のように冷たかった。
風邪ひく前にそろそろ帰ろうと提案すれば、うん…と名残惜しそうな表情で言われる
｢灰谷君、私の事、忘れていいからね｣
｢やだ。ぜってー忘れない｣
｢……じゃあ、見つけてくれる？｣
言葉で答える代わりに、俺はAにキスをした
見つけるさ。どこにいたって。
そんな意味を込めて。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1619人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「東京リベンジャーズ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
華恋(プロフ) - こんな素晴らしい作品を今まで見逃していた自分に嫌気が指す…タイトルの雰囲気からは想像できない感動が衝撃すぎて…まさに衝撃の事実…感動しすぎて語彙力失いました……どうしてくれるの作者様。() (8月14日 9時) (
レス) @page49 id: 92a816f288 (このIDを非表示/違反報告)
千珠 - めちゃくちゃ心に刺さる･･･！つらい･･･！ (2022年2月9日 14時) (レス) @page48 id: cf6ad1b61e (このIDを非表示/違反報告)
千珠 - 待って、マジで泣きそう･･･！！ (2022年2月9日 13時) (レス) @page39 id: cf6ad1b61e (このIDを非表示/違反報告)
千珠 - マジで幸せになってくれ･･･！！ (2022年2月9日 12時) (レス) @page33 id: cf6ad1b61e (このIDを非表示/違反報告)
千珠 - まさか一虎のお姉ちゃんだなんて･･･泣きそうになりました･･･！ (2022年2月9日 12時) (レス) @page28 id: cf6ad1b61e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ツナ
| 作成日時：2021年12月25日 21時
