・〜柊side〜 ページ21
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結局視線を落としてしまったAはそのまま担当医と喋る
「調子はどう?元気?」
『はい。それはもう、外で走りたいくらいには』
「ハハッ、そっかそっか。
でもまだ駄目だからね?」
『承知してます』
こいつの口からスラスラと出て来る嘘
時々、目を隠す前髪の隙間から担当医を一瞥する仕草
無駄にトーンの明るい声色
何よりも
こんなにスムーズに喋るのが、違和感だった
いや、もはや違和感を通り越した恐怖すら感じる
まるで、最初から用意されている言葉を言うように、間髪入れずポンポンと会話を弾ませ
思ってもない事を口にする
Aはどちらかと言うと室内の方が落ち着くタイプだ
外で走りたいだなんて、あり得ない
そんなAを思わず凝視するが、こいつは変わらず顔を上げない
「あ、すみません、申し遅れました。
もうお分かりかと思いますが、渡瀬Aさんの担当医の者です。」
「あ、どうも…」
人当たりが良い笑顔を浮かべながらネームプレートを見せてくれる
決して恐怖心など抱くような人ではない
「郡司正人警部補から聞きました。
何やら、2人は仲が良いらしいですね」
「そう、だと嬉しいですね」
職が職なだけあって、物腰が柔らかいから話しやすい
恐らく、幅広い年層に好かれるような人だ
「美術部、だったんだって?」
『、…』
優しく尋ねられたが、Aは一瞬だけピクッと小さく揺れた
そして今までスラスラ喋れていたのに、ここで漸く言葉が詰まる
『そうなんです。
だから先生にはとてもお世話になったんですよ』
でも、それも束の間
言葉の詰まりは直ぐに消えて、口を開いた
「へぇ、そうなんだ!
じゃあ今度何か見せてもらえるかな?」
『…ハハッ』
「!」
…Aが笑って誤魔化すのはザラにある事だ
でも
ここまで乾き切った声を聞いたのは初めてだった
ふと、Aの手に目を落とす
「、!」
そしてまた、軽い衝撃を喰らった
膝の上に置かれたAの手は
まるで、何かに耐えるように
自分の手の甲を、爪が食い込むくらい掴んでいた
あと少しで血が滲んでしまうのではないかとさえ思う程
咄嗟に手を伸ばして、それを辞めさせようと手を包み込むが
Aの手が緩む事はなかった
「A…」
名前を呼んでも
それは変わらなかった
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おひな(プロフ) - 感動しました。ありがとうございました。 (1月9日 23時) (レス) @page44 id: fb3fd917e6 (このIDを非表示/違反報告)
玲生(プロフ) - 私こんな綺麗に泣いたことないかもってぐらいすーって涙ながれた (8月14日 22時) (レス) @page44 id: 7f34fd14ff (このIDを非表示/違反報告)
ケロッピ(プロフ) - ありがとうございました (8月6日 1時) (レス) id: fb652d6333 (このIDを非表示/違反報告)
ミウラ(プロフ) - 柊先生の生存ルートも書いてほしいです (2021年3月19日 16時) (レス) id: b4ba18a803 (このIDを非表示/違反報告)
蒼炎 - え、え?最終更新日が…?また更新されるのですか?期待しても良いのでしょうか?笑 (2021年1月18日 23時) (レス) id: 76abfc2842 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:もちもち | 作成日時:2019年5月14日 23時