文スト夢小説 【chocolate】※腐、太芥

episode．2 ページ2

芥川は、其の恋人の寝室で、彼の人……太宰の帰りを待っていた。

…何故、付き合い出したのだろうか？

只の一介の部下……然も、同性である自分と。

其れは、よく判らなかった。

申し込まれた時も、任務を下す時の様に｢付き合おう｣とだけ云われた。
其れから、太宰は芥川を外に連れ出す時も、そして抱く時も淡々としていて、深い愛情を注いで居るような態度は見せないのだった。


芥川は今、其んな太宰の寝室で待たされて居る。
以前、付き合い始めてからいちばん最初に貰ったチョコレートの事や、詰まらない事を頭に浮かべては消し乍ら。


ふと、ベッド脇のサイドテーブルに設置されている骨董の振り子時計に目を遣ると、もう10時を回っていた。

また、仕事が長引いているのだろうか？

小さく息を吐き出すと、芥川は座っている体勢から、太宰のベッドに身を横たえた。

心地好く冷えているベッドの白いシーツはひどく清潔で、嘗て行為に及んだ時の残滓は僅かばかりも残って居ない。


だが、今は其れが、少し寂しかった。



露台(バルコニー)越しの夜景を隠す窓帳(カァテン)は、夜の潮風を孕んで心地好く揺れる。

迚も(とて)静かだ。

これ迄、“寂しい”なんて思った事は無かった。
ずっと、一般的に云うらしい“寂しい”場所に居たのだから。

だが、彼の人に触れて、彼の人に触れられて…

その時、自分は生まれて初めて人間になった。

痛みで自分を感じていた時とは違う自分に。


白いシーツ。

…太宰さんと寝た、太宰さんの香りの…


きゅ、と握った清潔なシーツに、放射状に皺が走る。

此処は慥かに太宰の寝台で、慥かに太宰と情を交わした処。

けれど、今はその温もりは欠片も無い。


嗚呼、彼の時食べたチョコレートは美味しかった。

貴方との記憶はチョコレートの様なものなのか？

“麻薬みたいだね。”

その通りだ。けれど恨みはしない。


ひとつ恨むなら、自分が恨めしい。

太宰さんは、僕を僕にしてくれたのに、
僕は太宰さんに寄り添えていない。

彼の人は何も語らない。

ひょっとしたら、自分を“愛している”のは、上辺だけなのかも知れない。

自分を“愛する”様にと、そういう任務なのかも。

…其れはそれで構わない。

仮令(たとえ)愛されていなくても、僕を抱き締めてくれた時は、僕だけを視てくれた。


何でも佳い。


僕は、太宰さんの物だから…。

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