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実際にはそんなことをしない彼は、道着のなかに手を突っ込んで、ぼりぼりと腹を掻(か)いている。
眠そうに欠伸をしている彼を見上げて、鉄虎が涙目で唸(うな)った。
「あぁ、大将！ すんませんっ、客人を招くのは慣れなくて緊張しちゃうッス！ うああっ、おでこ打った！」
「落ち着きがねぇな、おまえは。もっと、泰然自若(たいぜんじじゃく)としていろ」
「たいぜんじじゃく____意味はわかりませんが、わかったッス！ 押忍☆」
親子のように仲良く、空手部のふたりは微笑みあっている。
「あら、もう来てたの」
スバル、真、北斗が入ってきた扉が開き、Aが顔を覗(のぞ)かせ、入室した。
「あれっ？ 朝霧先輩だ〜」
「はぁ......全員揃ったし、話を始めましょう」
毎度毎度彼女に抱きつこうとするスバルを軽く流して、本題へと促(うなが)す。
「そうだな。まぁ、そんなとこに突っ立ってても仕方ねぇ。遠慮せずに、入りな。
......鉄、てめぇもいつまでもすっ転んでんじゃねぇぞ。お客さんを案内してやんな」
紅郎もAに同調し、鉄虎に指示をだす。
顎で促され、床におでこを痛打(つうだ)して呻(うめ)いていた鉄虎が機敏(きびん)に顔を上げる。
その場で垂直に跳躍(ちょうやく)するみたいに立ち上がると、右手で左腕を叩く勇(いさ)ましいポーズ。
お日様みたいに笑うと、自分がやるべきことを探してキョロキョロする。
「押忍！ じゃあえっと、お茶を用意するッス〜♪」
「ど阿呆(あほう)、武道場は飲食禁止だ。作法は守れ。ってことで、茶もだせねぇが。
まぁ、ゆっくりしていきな」
ちょこまか動いている鉄虎をお母さんみたいに気にしながら、紅郎は立ち往生(おうじょう)している3人を見遣(みや)る。
「そのへんに、てきとうに座ってくれ。Aもな」
「ええ」
促され、3人は床にそのまんま座りこむ。
3人は横並びに、そしてその正面に鉄虎、紅郎、Aが座る。
「......そう、警戒しなくていい。以前、借りたハンカチを返すだけだ」
警戒を緩ませない3人に、うすらと笑みを浮かべて言う。
「義理を、果たす。こないだの野良試合のときは、おまえさんのおかげで助かった」
1週間前の、【龍王戦】のことだろう。
口元が汚れていたから、ハンカチを貸しただけだ。
恩義を感じてお礼を言われるほどでは、と北斗は思った。
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作者名：白銀桜夢 | 作成日時：2018年2月10日 16時
