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「……もう大丈夫みたいだな。一時はどうなるかと思ったが、おっさんのおかげで助かったぜ。」
「ウフッ、お礼はアリスちゃんに言ってあげて。」
シルビアは整備士兼操舵手のピンクの覆面をつけた筋肉隆々な男、アリスを一行に紹介した。
「…ま、直前の奇行は疑ったけどな。」
「酷いわ、ゼクちゃん!アタシがそんな事するはずないでしょ〜?」
悪かった、とゼクが軽く謝ればまったく、とシルビアに呆れられた。
お礼を言えば、アリスはどこか照れてる様子だった。
その時海面が大きく揺れ、船首の方に何かが現れた。
海面から出てきたのは、大きなイカだった。
「イヤーッ!何よ、この化け物イカ!いったいどこから湧いて出たのー!?」
遠ざかったダーハルーネの波止場で、何かホメロスが叫んでいるが内容までは分からなかった。
「…あんの細目、俺の嫌いなやり方しやがって。」
イカの化け物は船に近づくと、船首に絡みつき沈めようとしてくる。
アリスがまだ死にたくない、と泣き言を口走るが、それは勇者一行も同じである。
「ゼクちゃん、どうにかしてちょうだい!」
「なんで、俺だよ!」
シルビアとゼクがやりあっていると、どこからともなく海原に響く大砲の音が聞こえてきた。
辺りを見渡せば、一行の船とイカの化け物を包囲するように船団がいた。
その船団から、何度と大砲の音が聞こえてくる。
「見て……あのでっかいイカが大砲の音に怯えて、逃げていくわ。」
「空砲か……ヤツの対処法知ってるってことは、あの船…」
イカの化け物が海の中へ逃げ帰ったあと、とある1隻が一行の船へと寄ってきた。
その船に乗っていたのは、ダーハルーネの町長ラハディオとその息子ヤヒムであった。
「よかった……ご無事なようですね。あの魔物はこの辺りの海をよく荒らすことで有名な、クラーゴンなんです。」
「それを知ってるってことは、この船団はダーハルーネの商船か。」
「はい、その通りです。」
謎の船団がダーハルーネの商船だと分かっても、ゼクの視線から怪訝さはなくならなかった。
ドック解放を頼みに行った際の態度の変化が、未だに騎士の中で燻っている。
「お兄ちゃん!おじさん!僕だよ、ヤヒムだよ!僕、声が出るようになったんだよ!」
ヤヒムの声が出なくなったは、災いを呼ぶ勇者の呪いと勘違いし、誤解したまま突き放した冷たい態度を取ってしまった、とラハディオは頭を下げてきた。
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年4月1日 23時