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「待つのじゃ。」
前方にはマルティナを担ぎ上げ、ここまで連れてきた行方不明事件を起こしている張本人が見えている。
「…確証はあるのかよ。」
「ある。だが、今動けば元凶までは出てこぬやもしれん。」
「ゼク、機会を待とう。」
勇者にも制され、騎士のグローブがギリギリ、と悲鳴をあげる。
「アラクラトロ様!新しい獲物を連れてきました!」
行方不明事件の犯人であるハンフリーが、そう奥の方に向かって声をかければ首謀者が現れた。
「シュルルルル……今日の獲物は、そやつか…ほほう……これは、極上の女闘士だな。」
ハンフリーにアラクラトロと呼ばれたクモの様な魔物は、エキスを絞り出してやるから差し出せ、と命令している。
ハンフリーも素直に従うらしく、強さの裏にはそんなカラクリが存在していたのだ。
今まさにアラクラトロの毒牙がマルティナに迫ろうとすると、痺れを切らしたゼクが駆け出した。
それを引き止めようとしたカミュの左手は、空を切った。
それと同じくしてマルティナは意識を取り戻したのか、迫る悪手から転がり起きて逃れた。
「ついに姿を現したわね。わざと捕まったかいがあったわ。」
その言葉にゼクの中で腑に落ちなかったものが合致して、ハッ、と老人を振り返った。
まさか、の意味を込めた視線に老人は、ゆっくり頷いて肯定して見せた。
「16年前に、町を襲った魔物の群れはグレイグによって倒されたと聞いていたけれど、生き残りがこんな所にいたなんて…」
「思い出した…こいつ、俺が取り逃したクソクモだ。」
「そういえば、師匠も同行しての討伐任務だったわね。」
「ふむ、姫よ。ごくろうであった。」
老人がイレブン達と共に、マルティナの下へやってきた。
ゼクは、体勢を低くしていつでも攻撃出来るように構えたまま老人へ視線を向けた。
「それならそうと話を通しておいてくれ…」
「すまんかった、だが敵を欺くにはまず味方からと言うじゃろう。」
策士が、と棘を含ませて吐き捨てれば、好々爺と言わんばかりにふぉっふぉっふぉっ、と老人は笑った。
「ハンフリーよ。すまんがおぬしの部屋を調べさせてもらった。決戦前の直前で、おぬしが飲んでいたもの……あれこそが闘士達から絞り出されたエキスだったのじゃな。」
「そうか……オレの部屋に侵入したのはあんたらだったのか……」
シュルルルル、とおかしげにアラクラトロが笑う。
「その通りだ、人間よ。」
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作者名:春月是駒 | 作成日時:2023年4月1日 23時