転入生の小休止 ページ40
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「……くっっっそ疲れた……」
授業終了後。
戻ってきた教室で、私は即座に自分の机に突っ伏して動きを止めた。
あの後は通常通りの授業だったのだが……課題の練習時間の際、知ってる奴も知らない奴も、皆が目の色を変えて私に詰め寄ってきて、それはもう大変だった。
曰く、歌唱指導をして欲しい――と。
……いや、いやいやいやいやいや。
私、トレーナーじゃないです。プロデューサーです。
プロデューサーの仕事じゃないでしょ、そんなの。業務外どころか専門外な依頼をされても困るんですけど。
それに私、別に専門的な勉強とかレッスンとか受けてない。在りし日にお母さんから基礎を叩き込まれはしたけど、それだけだ。
って言うとよく『本当に？』って疑われるんだけど、本当に基礎中の基礎だけです。
さっきの精神集中法とか、腹式呼吸のコツとか、喉や口の開け方、滑舌とかアクセントとか、そういうのばっか。
ね？ メチャクチャ基礎でしょ？
だからまぁ、それ以外は自己流？ みたいな感じなんで、とてもじゃないけど、伝授出来るようなモンじゃ無いんだよな〜。
そもそも、私のやり方が誰にでも通用するなんて有り得ないし、下手な希望や幻想を持たせるような真似はしたくない。後で『騙したな！』ってキレられたりすると面倒だもん。
と言うか、さっきの『テスト』もだけど、最近は割とウチの兄貴の真似しながら歌ってるから、ぶっちゃけ私よりも兄貴に聞いた方が早いと思うんだよな〜。
あの人、実は元々アイドルじゃなくて歌手志望で、声楽科に入ろうとしてたのを、アイドル科にスカウトされて特待扱いで入った……っていう裏事情があるし。
アイドル科に入っても、声楽の勉強は変わりなく続けてたから、私よりもよっぽど知識も経験もあるはずだ。
忌々しい事に、あのクソ兄貴、私とるりちゃん絡みでは変態くさいが、『20代の男性アイドル』としては、まず間違いなくトップクラスに入るであろう実力者ではあるのだ。
え？ 納得いかない？ うん、分かる。皆そう思ってると思うよ。
兄貴の『上っ面』しか知らなければ、だけど。
閑話休題。
そんなこんなで、皆の熱烈なお誘いを断り続け、何とか授業は乗り切ったものの、すっかり体力を削られた私は、こうして机で束の間の休息を取っているのでありました。
はぁ、机冷たくて気持ちいい……。サンキューツック……。
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作者名：姫結 | 作成日時：2018年8月28日 13時
