転入生のテスト・4 ページ32
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……いや、でも、そうか。
この部屋は多人数対応で、かなり広い部屋。
という事は、
「まさか、これ、『チェス』時代の曲？
当時練習で使ってた奴を、月永くんが面倒がってそのまま入れっぱにしてたとか、そういうことなの？」
「お、おお……よく分かったな？ その通り、これは『チェス』の曲だ。
アイツらが色々あって分裂して、これの存在を知ってる奴も少なくなっちゃったから、今じゃ使う奴はそうそう居ないけど……」
そこで言葉を切って、仁兎くんは私に顔を向ける。
「だからこそ――お前に使って貰えたら、レオちん、きっと喜ぶと思うんだ。
埃を被って存在すら忘れ去られるより、ずっとずっとマシだってさ」
丸く赤い瞳に私を映して、期待いっぱい、みたいなキラキラした視線で私を見る仁兎くん。
まるで、私が今からやる事を分かっているかのように。
「……もしかして、私のこと、斎宮くんから聞いてたりする？」
「割とな。お師さ……、斎宮って、思い出話になるとやたら熱入るから……。だから、今、実はちょっとだけワクワクしてる。どんなのが聞けるかな〜って♪」
「勘弁してよ……」
満面の笑みで放たれた言葉に、思わず肩を落として項垂れる。
ハードル上がるじゃん。ふざけんな。そういうの怖いからホント止めて？？？
「……まぁ、一応頑張るけど、そんなに期待しないでね？ 私、所詮は素人だし」
予防線を張りつつ、曲を選ぶ事にする。
ん〜、出来れば穏やかなのが良いなぁ。激しいのも歌えなくはないけど、兄貴には遠く及ばないし。
『〜♪〜♪〜♪』
……あ、これ、いいかも。
すごくゆったりしたピアノ曲。まさにシンプルイズベストだ。気取らないのが好ましい。
その曲を一周聞き終えてから、私は仁兎くんに声をかけた。
「仁兎くん、この曲でお願い」
「ん、分かった。お前も準備しとけ〜？」
そう促され、渡されたマイクを手に、元の位置に戻る。
途端、私に集まる視線。
……大衆の前に立つのは、やはり慣れない。
凄いよなぁ、アイドルとか歌手って。他人の視線を集めて歌い踊るなんて、私にはとても無理。芸能界も芸能人も大嫌いだけど、そこだけは純粋に尊敬する。
両目を閉じて、深く息を吐いて、イメージ。
『――いい？
想像してみなさい、A』
思い出すのは、お母さんの言葉。
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作者名：姫結 | 作成日時：2018年8月28日 13時
