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#37 ページ37

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─Side E─



「!」

歩きかけたところ、

俺の手首をAに両手で掴まれた。

「やめて、お願い」

彼女は俯いたまま懇願する。

「私なら本当に大丈夫だから」

「Aのためじゃない。
俺の気が済まないんだって」

今のは半分嘘で、半分本当。

「だとしても、やめて。
これは二人の問題で、エイジが
首を突っ込む事じゃないんだよ!」

正直驚いた。

以前のAなら絶対、

こんなこと言わなかっただろう。



バッ、と腕を解いた。

「……わかった」

そう言って歩き出すと

Aは一度、二人を振り返ってから

走って俺に追いついてきた。

「────変わったね」

小さく呟くと、彼女は答える。

「自分に嘘つきたくないんだ。
……今度こそ、
好きな人に振り向いて貰えるように」



*



(“好きな人” か……)

放課後の教室で

俺は頬杖をついてぼんやりしていた。

何処に行ったのか、隣にあいつの姿はない。

どころか、他のクラスメートの姿も。

俺も帰ろう、と鞄を手に立ち上がったとき

「あっ」

教室の扉の所に

何故か息を切らせたAが立っていた。



「何してんの?」

そう問いかけると

彼女は困ったように口を噤む。

────何となく、

クラスメートのあの女子に

告白された日を思い出した。

……そんなわけないけど。



でも、まずいんじゃないか。

そらはAが好きで、Aもそらが好き。

てっきり昨日のそらの“話”は告白で

二人は付き合うことになったのだと

思っていたけれど。

だから余計、今朝のそらに腹が立ったんだ。

……二人きりで長居は出来ない。



「俺、帰るから」

鞄を肩に掛けて

彼女がいるのとは別の扉に向かう。

「なら、私も一緒に帰る」

「いや、それは駄目」

「何で? いいじゃん!」

自身の机から鞄を取ったAは

言いながらこちらに歩いてくる。



「駄目だっつってんだろ!」

思わず荒らげた声に押し寄せる後悔の波。

驚いたように目を見開き立ち止まった彼女。

「前に俺が告白したからって
いつまでも同じ相手を好きだとか思ってんなよ」

やばい。

止まれ。

口を開けば傷つけるようなことばかり。

「……馬鹿にすんな」

もう、Aの顔なんて見られなかった。



ただただ後悔と自責の念で

頭がぐしゃぐしゃになる。

俺の背後でAが

どんな表情をしていたのかは分からない。



でも、

取り返しがつかないほど傷つけてしまったことは

誰が見ても明らかだった。



────交錯した“好き”が、拗れる。



.

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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 1時

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