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─Side E─
嫌われればいい、と冷静な理性が言った。
それが二人のために俺が出来ることなのだと
俺は本心を隠して感情を殺した。
そらはAが好きなんだ。
遅かれ早かれ、いつかは想いを伝えるだろう。
それはAも同じ。
『好きな人には好きな人がいる』
そんな障害は既になくなった。
もう、いつ告白してもおかしくない。
両想いなのだから─────。
二人を隔てるものは何も無いのだ。
やっと─────
Aが幸せになる時が来たのに
今更、俺がでしゃばって邪魔をする権利はない。
「……」
これでおしまい。
今まで育んできた気持ちも、
大切に守ってきた関係と境界線も、
たった今、音を立てて崩れ落ちた。
好かれる努力はもうしない。
これからは、もう。
*
「……」
「……」
朝、昇降口でエイジを見つけた。
昨日あんなことを言われたから
声を掛ける勇気も出なくて
私は無言で靴を履き替えていた。
ちら、と視線をやっても
赤く染められた長い前髪に
その目元が隠れていて表情は読めない。
だけど、彼はただの一度も
こちらを向いてはくれなかった…。
私の前を横切るようにして
無言のまま、歩いていく。
「あの、」
思わず声を掛けてから直ぐに後悔した。
エイジはやはりこちらを見なかったが
立ち止まってくれた。
「ごめん、やっぱり何でもない」
「……そう」
彼は歩き出す。
その後ろ姿を見つめて
ひどく心が寂しくなった。
……私、何かしちゃったかな。
断られたのに、
“一緒に帰る”と執拗く言ったから?
ううん、きっと違う。
都合の良い解釈とかじゃなくて
エイジはそんな人じゃないって、
あれだけ一緒にいたら、わかる。
まさか、私の気持ちに気付いた……?
鋭い彼のことだから ありえなくはない。
『前に俺が告白したからって
いつまでも同じ相手を好きだとか思ってんなよ』
『……馬鹿にすんな』
─────迷惑だったのかもしれない。
もう彼には、別に好きな人がいて、
今更 私がエイジに傾いたって
その気持ちは迷惑だったのかもしれない。
遅かったんだ、気付くのが……。
もっと早くに認めていれば。
後悔したってしょうがないのに
そうして悔やむしか出来ない。
何で。
どうして。
“好き”を自覚した途端に
それは上手くいかなくなるの?
─────ただ、好きなだけなのに……。
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作者名:小桜ふわ | 作成日時:2017年11月25日 1時