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ホメロスは平然と躊躇いもなく口にした。
そこに感情というものはなく、血の通わない冷淡な瞳がAを見下ろす。
「なんでそんな…おかしいじゃないですか…」
「おかしい、か。それはこの村が悪魔の子を育てたとしてもか?」
消えいりそうな声で反抗するAに、デルカダールで耳にした言葉が愕然と突き刺さった。
しかし、だからと言って村を破壊し、村人を処刑するなど受け入れるはずもなかった。
「そんなこと、納得できるわけ…」
「なるほど、そうゆうことでしたか」
丸い眼鏡を弄り、Aの声にシロエが重なった。
「シロエ殿は納得して頂けたようだ」
不安そうな蒼い瞳がシロエを見つめる。
シロエは、目を閉じて優しく笑った。
「いえ、貴方達に同調してなどいませんよ。僕が聞いていた話と随分喰違いがあるようだ」
「ほぉ、それはどんな内容でしょう。事の顛末によっては貴方も例外ではない。たとえ偉大な魔法使いでもね」
ホメロスは腰に携えていた剣をシロエに向ける。
「やめてください!」
「Aっ!」
両手を広げ、剣の先を自身で遮る。
シロエの制止も聞かぬまま、海よりも深い蒼の瞳がホメロスを静かに見つめた。
胸元にあった鋭い先がゆっくりとAの首筋へとあてがわれる。
それでもなお動く気配を見せない彼女に、ホメロスは肩で息を吐いた。
「…本当に、君だけはあの頃と変わらないな」
Aの喉元に切っ尖を向けたホメロスはどこか懐かしそうに呟いた。
何故、彼がそんなことを言ったのかわからなかった。安堵したようにも見えたホメロスの緩んだ瞳に、不思議に感じたAが問いかけようと声を発した時だ。
「これは…一体どういう事だ」
黒い鎧で着飾れた馬に乗ったグレイグは、事の惨事に驚いた表情を浮かべていた。
「ホメロス、いくらなんでもやり過ぎだ」
「ふん、貴様は相変わらずだな」
グレイグがホメロスを諌めている。
ホメロスは眉間に皺を寄せ、腕組みをしていた。
Aは、先程のホメロスの言葉が気になっていた。昔から自分を知っているような彼の態度と言動。しかし、自分の記憶を辿ってみても身に覚えがなく、より違和感が積もっていくだけだった。
「ねぇ、あなたもしかしてAちゃんよね」
考え込んでいたAに突然シロエ以外の人から自分の名前を呼ばれ、きょとんとした表情で振り返れば、金色の長い髪にオレンジのスカーフを身につけた少女がこちらを気にしていた。
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作者名:マナ | 作成日時:2020年1月12日 20時