001 勇者を育てた村 ページ9
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「あの、いまってどのあたりですか?」
「んー、デルカダール地方南に降りてきてるからそろそろ…」
シロエがそう言いかけた時だった。
何かが焦げたような鼻をつく臭い。
「シ、シロエさんっ、あれっ!」
Aが指さした方向から薄く煙が昇っている。
グリフォンの手綱を引き、大きく旋回して高度を下げていく。
「なぜ迂回するんですか?」
シロエは、煙が昇っていた場所から少し離れた平地にグリフォンを着地させた。
「うん、グリフォンは目立つからね。それにあまり他の人には知られたくないし」
幻想種であるグリフォンはあまり認知されておらず、その存在が幻だ。
シロエが持つ召喚笛も何故存在し、シロエが持っているのかすらAは知らない。
恐らくグリフォンを操っているのはこの世界でシロエただ一人だろう。
Aは納得した様子で、それ以上は聞かずにシロエの後ろを歩いた。
「…ひどい」
あまりにも見るに堪えない光景だった。
丸い石造りの家屋は無残にも半壊しており、そこにあった家具やツボは瓦礫で押しつぶされている。
石橋に至っては、ほとんどがえぐられたように欠損していて歩くことができない。
しかし、協会だけは壊すのを躊躇ったのか綺麗なまま残されていた。
破壊される前までは平和を絵にかいたような村だっただろう。悲惨な現状に言葉が詰まった。
「これはシロエ殿。こんな辺境の地に何用ですか?」
覚えのある声へ視線をむければ、そこにはデルカダール王のもとを訪ねた際、玉座の間にいたホメロス将軍であった。
「僕は自由人ですからね。気の向くまま旅をしているにすぎません」
「では、関係者でないのであれば即刻ここから出て行ってもらおう」
「それは困りました。僕らはここで一晩泊めて頂こうと考えていたのですが。この状況ではね」
至って笑顔で答えるシロエに対し、ホメロスは苛立ちのある声色だった。
「あ、あの、村の人たちは…」
今にもホメロスは腰に携えた剣をシロエの鼻先に向けそうだった。
そんな二人の間に、恐る恐るAが先程から気になっていることを尋ねた。
「あぁ、それなら今から処罰するところだ」
言葉が脳に伝達され、理解するまでのタイムラグ。ひどく絶望感を与える言葉に、心臓を鷲掴みにされた感覚に陥る。
「シロエ殿の弟子にしては物分かりが悪いな。皆殺しということだが、理解できなかったか?」
自分から聞いておきながら一言も発さないAに、ホメロスは少し眉間に皺を寄せた。
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作者名:マナ | 作成日時:2020年1月12日 20時