水槽に迷い込んだ貴女Ⅱ【Fischer's】【短編集】 (ページ20)

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『8月19日(2)』シルク×恋人ページ20

シルクside

彼女がさっきから、こっちを見て寂しそうな顔をしている。時折髪を耳にかける仕草が俺は大好きで、というか彼女の全てが可愛くて愛おしい。

俺が告白したあの日、俺がずっと求めていた返事を頬を朱色に染めて伝えてくれた彼女に、俺はより一層彼女が好きになった。惚れ直した。

彼女の隣の席に腰掛けて距離を詰め、顔を近づけながら手を握れば、彼女は茹でダコのように耳まで真っ赤にして、机に伏せてしまった。

シ「今日、俺と一緒に帰って」

俺が耳元で囁くと彼女の肩がピクリと動く。そして数秒の間を置いてからコクコクと頷いた。

シ「正門の前で待ってるね」

彼女はまた小さく頷いた。

憂鬱な夏休み中の登校日のはずなのに、俺の心臓は煩いほどにバクバクしていて、こんなに緊張しているのは“あの日”以来かもしれない。

俺の誕生日、1番にメッセージをくれたのは皮肉にも、夜中まで起きてゲームをやってるダーマだった。嬉しいが、Aから1番に欲しいかも、とか少しは気を遣えと思ってしまった。

「一緒に帰って」と誘ったのは、その時じゃないと言って貰えないような気がしたから。いつもなら「帰ろ」と言うが、今日は「帰って」と強めにしてみた。

コツコツというローファーの音が近付いてきたのに顔を上げると、「おまたせ…」と俺の好きな仕草をして彼女がやってきた。

シ「行こーぜ」

俺はさりげなく彼女の手を取って恋人っぽく繋ぎ、その手を引きながら歩いた。半歩後ろにいる彼女の表情は見えにくいが、きっと赤くなっている。

傍から見れば他愛もない話を俺がして、それを彼女は時々クスクスと笑いながら聞いてくれる。時にはそのまた逆も。彼女が話すのは少しぎこちないがw

そして、やがて会話が止み、少しの沈黙の後口を開いたのは以外にも彼女の方だった。

『あ…あのね、言わなきゃいけない事があって…えと…』

シ「んな慌てんなよw ゆっくりで、いいから」

『言わなきゃいけない、と言いますか、言いたい事…です』

シ「うん、」

俺がずっと心待ちにしていた言葉が聞けるかも、と俺の心臓は高鳴り、思わずにやけてしまいそう。

『っ…、今日…！誕生日、おめでとうございますっ……！』

何故敬語なのかと吹き出しそうになるのをギリギリ堪えて、俺は嬉しさを全面に出して「ありがとう」と笑顔で言った。