水槽に迷い込んだ貴女Ⅱ【Fischer's】【短編集】 (ページ21)

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『8月19日(3)』シルク×恋人ページ21

シルクside

いかにも彼女らしく“おめでとう”を伝えられて、俺は口元を綻ばせながら、視線を逸らす彼女の髪を撫でた。

シ「俺、Aのことすげぇ好き」

『わ、分かってます…』

シ「ふっw だよな、俺も知ってるw」

しばらくの間俺は無言で彼女を見つめながら髪を撫で続けた。いくらシャイな彼女でも、俺が今欲している言葉がわかるだろう。

そんな俺の心の中での独り言を聞いていたようにタイミングよく、彼女が俺の意思を汲み取ったようだ。小さく口を開けば閉じて、また開いて。

シ「そんな無理に言わなくていいよw」

『うぅ……』

シ「Aが言える時に、言いたいなって思った時に言ってくれればいいよ」

申し訳なさそうに下唇を噛む彼女の手を取って、俺はまた歩きだそうと方向転換した。

しかし彼女は歩く気を全く見せず、俺を引き止めているようだった。

『あのね、シルク＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿＿好き…だよ』

真っ直ぐ俺を射抜く大きな瞳は煌めいていて、ほんのり赤い頬がまた俺の心を擽る。しかも初めて言われた彼女からの“好き”。思えば名前を呼ばれたのも初めてだ。

シ「……今、A、好き…って言ったのか…？」

『…それ以外に何があるの』

体中に熱い血が巡って、今俺の体温は急上昇している。

シ「俺、今まで無理矢理付き合わせてると思ってた。告白も強引だったし、Aは俺の事好きじゃないと思ってた」

『……好きじゃなかったらOKしないよ』

シ「今までで一番幸せな誕生日だ……」

強く強く彼女の細い身体を抱きしめた。これでもかと、これ以上は折れるのではと思う程に。でも彼女は最初は強ばらせていたものの、ゆっくりと抱き締め返してくれた。

『私…シルクが最初の彼氏だから、どうすればいいか全然わかんなくて……』

俺の首元に顔を埋めて喋るモゴモゴとした声が俺に届く時には彼女の腕の力も強まっていて、お互いに強く抱き締めあっているような形になっていた。

シ「じゃあAにとって、俺が最初で最後の彼氏ね」

『っ……//』

シ「あーもう…、そういう顔ばっかすんのほんとずるい……！その顔見せていいの俺だけな！」

俺は彼女の肩を掴み、身を強ばらせる彼女もたどたどしく俺の腕に手を添え、俺達はゆっくりと近づいた。

ただ触れて、「んっ」と彼女が甘い声を漏らすと同時にコツンと歯が当たる音。本当に彼女は不慣れなんだとなんだか嬉しくなる。

シ「初めてもーらいっ」

幸せな誕生日をありがとう。ずっと愛してるよ。