その人の癖を ページ6
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次の日、店はしばらく休業になっていた。
二週間ほどの休業と記された紙を見て疑問しか浮かばなかった。
アレがいないってことはおばさんが店に立つんじゃないのか。
アレはなぜ昨日ちゃんと制服を着ていたのか。
どちらにせよ、良い理由ではないことは理解出来る。
踵を返して今日は大人しく帰ろうとしたとき、反対側の歩道を足早に去っていく見覚えのあるボサボサ頭。
誰かと電話しながら片手にキャリーバッグ、片手にパンパンに積められた大きめのバッグを持っていた。
その横顔は今にも泣きそうなのに口角は上がっていてどういう表情なのかわからなかった。
○
休業が終わり、営業再開したであろう日に店に行くとまた休みの紙が貼り付けられていた。
あまり深く考えないまま今日も帰ろうと思った矢先、視界に入るのはいつもの席からひょっこり見える頭。
気が付くとドアを開けていた。
「あれっ、今日は休業───って、ジュンちゃんじゃん。いらっしゃい〜」
「…何、してんすか」
「え?あぁ、眠たくてつい寝落ちしちゃってたんだよねぇ。私さっき帰ってきたところだからさ」
目の下の薄らと出来た隈が寝不足と疲労を物語っていた。
何も言わずに向かい側の席に座って今度は俺が両手で頬杖をついてみると大笑いされた。
「あっははは!ジュンちゃん私の癖覚えたねぇ!」
「…うるせぇですよ」
「はぁ〜おっかしい。疲れも眠気も吹き飛んだぁ。ありがとね」
「それはよかったっすねぇ」
今度はニヤニヤしながらいつも通り窓の外を眺め始めたのにその横顔はやっぱりどこか寂しげな気がした。
「そうだ、アイスコーヒー飲む?」
「いや、いいっす」
「遠慮すんなよぉ。私の奢りだ」
否定の声も無視してカウンターに入り作り始めるこの人は本当に人の話を聞かない。
そういえば、ふと思い出す先日の大学の出来事。
立ち上がってカウンター席に座ってグラスに氷を入れる手元を見ながら俺は口を開いた。
「アンタってさ、」
「A」
「…A、さんって俺のこと知ってるんすか?」
そう、あのときの女の会話を聞かれていたのなら。
俺がEveの漣ジュンと知ってこの人は接しているのか。はたまたあの会話で俺がアイドルだと知ったのか。
知られたくない、なんて心の声が聞こえた気がしたけど意味がわからないため無視。
そんな俺の心境を知ってか知らずかこの人、Aさんはまた口角を上げていた。
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接久(ツグ)(プロフ) - amiさん» コメントありがとうございます!引き続き読んでもらえてとても光栄です。主=変人を心がけ追い求めながら試行錯誤して書いております(笑) これからまた更新し始めましたので今後ともよろしくお願いします! (2018年9月1日 0時) (レス) id: 4b172a7e6c (このIDを非表示/違反報告)
苺果汁(プロフ) - 澪@接久さんの書く作品どれも楽しく読ませていただいております!この作品…まだ完結されてはない、ですよね? (2017年11月12日 17時) (レス) id: d7b47249f9 (このIDを非表示/違反報告)
のど飴 - とても面白かったです!!ジュンくん、尊い(´¶`)そして、夢主ちゃん奇人←これからも、頑張って下さい(´∀`)b (2017年8月21日 2時) (レス) id: 8c675f615a (このIDを非表示/違反報告)
ほたる - ジュンくんが可愛いです!!更新頑張ってください!!! (2017年8月15日 21時) (レス) id: 836cda0430 (このIDを非表示/違反報告)
ami(プロフ) - 澪@接久さんの『おひいさんと私』から来ました!前回と同じく、面白そうな話ですね!!そして、夢主ちゃんの変人っぷり(笑)次の更新を期待しています。これからも、頑張ってください。応援しています♪ (2017年8月14日 13時) (レス) id: 3e5b4b1383 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:澪@接久 | 作成日時:2017年8月14日 6時