気だるげ女と俺。【漣ジュン】

似てるふたりの接触 ページ11

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俺が歌う後ろでバイオリンを弾くAさん。



いつも向かい合って座っていたのに後ろにいるのが、俺がこの人の前に立って歌ってダンスをしているということに違和感が凄い。




「漣くん、もう少し楽しそうにできない？」

「…ッス」

「雪城さんももっと明るめに演奏してほしいかな」

「はーい」




プロデューサーの言葉にちらりと後ろを見るも視線が交わることもなく楽譜に何か書き込むAさん。


この間はあんなに楽しそうに弾いていたのに、今日は何かを訴えかけるような寂しい音をしている気がする。





＊





「お疲れっした」

「本番もよろしくお願いします！」




おひいさんと楽屋にいる奏者やスタッフに挨拶をしてホールを後にする。




「ジュンくん、君どうしたの？」

「何がっすか」

「今日は少し機嫌が悪そうだったね！それに調子も悪そうだったね」

「…気のせいっすよ」




おひいさんが顎に手を当てて何かを考える素振りを見せる。



あぁ、それはアンタの癖じゃなくて嫁さんの癖だろ。なんて口が裂けても言わねぇけど。




「ジュンちゃーん、帰るとこ？私も一緒に帰って…あれぇ、日和くんだ。お疲れ様です」

「おや、君は確かバイオリニストの雪城さんだね？お疲れ様！」

「へぇ、日和くんって思ってたよりもしっかりしてるねぇ」




後ろから俺を追ってきたAさんがおひいさんと話してるのをじっと見つめてた。


いつも通り笑顔で話すAさんは今日一日見せていたあの寂しげな一面はなく普通だ。




「ははっ、日和くんって面白いねぇ。リハのときは真剣な取り組みしてたしギャップがすごいや」

「よく言われるね！なんてったって僕だからね！」

「そうかいそうかい。自信があるのはいいことだ。君みたいな人がジュンちゃんの相方で良かったよ〜」

「褒められて悪い気はしないね！良い日和！」

「何それ、ウケる〜。私も使っていい？」

「あの」



ふたりが仲良く話してるところで思わず割って入る。


不思議そうに俺からの次の言葉を待つふたりはどちらも綺麗な顔をしててどこか似ていた。




似ているふたりが仲良さげにしていたのが、気に食わなかった。





「俺、こっちなんすけど」

「あぁごめんねぇ。私話しすぎたね。じゃ、日和くん気を付けてね」

「うんうん！二人共仲良くね！」

「お疲れさんです」




おひいさんと別れて駅に向かう道中、隣で口角を上げ景色に溶け込むこの人のことで頭がいっぱいだった。

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