例えば、夕日に口づけするような。 ページ8
「A、勉強会しやん?」
「勉強会?珍しいね」
息をするだけでやる気と体力が削がれてしまうような暑さが少しずつなくなっていき、涼しい風が頬を掠める時期になった。
季節がすぎるとともに、Aとはどんどん仲を深めていった。
「いいけど、別に照史くんは勉強会なんてしなくてもいい成績は取れるじゃない」
「そやけど、心配やん?教科多いし」
「あぁ、なるほど。僕との時間が欲しいわけだ」
「…悪い?」
「ぜーんぜん?」
Aは心の機微に聡い。
もともと持っている感覚が過敏な性質からなのか、生きてきた中で培われたものなのか。
兎にも角にも、Aには言わずとも伝わってしまうことが多々あった。
本人的には不便にも便利にも感じていることなのだろう。
「じゃあ、照史くん家集合。
今週の土曜でいいかな、テスト勉強期間だし部活ないでしょ」
「あ、おん。来てくれるん?ちょっと遠いやろ」
「たまには外出て歩かなきゃだから。こういう小難しい事考えてると体鈍っちゃう」
「ほんまやで、もっと運動せぇ」
「できたらしてるってのー。
起きたら向かうから、いつでも出られるようにしておいてね」
なんて、無責任極まりないこの一言で、カレンダーの土曜日の欄が埋まった。
俺は朝わりとすぐに起きられるタイプやけど、Aは全く違う。低血圧で、とにかく朝が苦手。遅刻こそあまりしないけれど、いつも学校に来るのは遅刻寸前。
でもこの子は神様に愛されとるから、遅刻の時間に登校しても、先生がおらんかったりなんやらで許されている。
俺はそれを見て、嫉妬するわけでもなく、羨ましがるわけでもなく、Aらしいな、と思うだけ。
そういう星の下に生まれたんやろな、って納得してる。
「やっと来た」
「お昼前に起きれただけでも褒めてほしいね」
いつ来るんやろかとそわそわして時計を眺め続けていると、インターホンが鳴り響いた。
確認もせずに開けると、扉の向こうには眠たそうなAが立っていた。
インテリアの小さいアナログ時計に目を落とすと、11時前。俺が電話で起こさないと夕方まで寝ているような人間なんやから、上出来と言ってもええやろう。
目をこすりながら悪態をつくAを愛しく思って、褒めるつもりで頭を撫でた。
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作者名:ひるた | 作成日時:2023年1月28日 1時