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歪な空気になったあと、Aはそんなことがなかったかのように振る舞った。
なんとなく、隠すのが得意なんやと思った。
なにか言ってあげたかったけど、変に同情まがいことは言いたくなかった。
彼が同情されたくてこんなことを言っているわけではない事は分かっていたから。
「…照史くん、僕に数学を教えてくれない？」
「やっぱ数学だけはあかんのやな」
「数字で会話する馬鹿がどこにいるっていうの」
「その発言めっちゃ敵作っとるで」
相変わらずの数学嫌いが発揮していて、なぜか愛しく思う。
いわゆる優等生のAでも苦手な分野はあるようで親近感を感じる。にしても嫌い過ぎだとは思うが。
「何がわからんの？…って、わからん事がわからんのか」
「最近数学を勉強しようとしたら頭痛がし始めるんだよね」
「そういう言い訳聞き飽きてるわ」
いつもの雰囲気を取り繕って、勉強会は進んだ。
やはりAとの時間は楽しかった。
いつものヤンチャなやつらと居るのも楽しかったけど、Aとの日々は、無駄な体力を使わず、リラックスして過ごすことができた。
彼が気を遣ってくれている証拠なのかもしれないけれど。
「…あれ、もう十七時や」
「ほんとだ。結構長くやってたね」
涼しい時期だというのにキンキンに冷えていたコップの中の水は結露し、気づけば中身も減っていた。
「A、どーする？飯食ってく？」
「いいよ、大丈夫。ご家族に迷惑かかるかもだし」
「ええねんそんなん…あ、せやったら、外で食おうや」
「寄り目くんってば僕のこと大好きだね」
「そのまま放り出すぞ」
ちょけるAを軽くはたいた。
結局、家に帰ってやりたいことがあるからと誘いは断られてしまった。
仕方がない。
これだけ他人の家に居座るのは体力が必要だろうし、きっとAは疲れてしもうたんや。
「遅くまでごめんやで、送っていこか？」
「いいよいいよ、寒いから、照史くんは中入ってて。
こちらこそ、とても楽しかった」
「おん、俺も。ありかとうな。気ぃつけて帰るんやで」
「うん。ありがとう。またね」
すっかり夕陽に顔を変えた空は、Aを強く照らした。
嘘など一つもない表情をして、自転車にまたぎ、俺に背を向けてその背中を小さくしていく。
「A…」
引き止めるために出た声は、あまりにも小さかったようや。
「好きなひと、おるん…」
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作者名：ひるた | 作成日時：2023年1月28日 1時
