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Aは恋人を作るという行為をしたことがなかった。
記憶は曖昧だが、恋バナを本人から聞いたこともなかったと思う。
彼は哲学的で、よく人間性について夢想することがあった。突拍子もなく語りかけてきては、Aの世界に浸り始める。
それは、理想的で、かつ現実的で。
ロジカルに整えられたAの世界観はひどく魅力的だった。
色々な考えが飛び交い、せわしなく動き続けているのに、Aの視点ではそれがゆっくりと優雅に泳ぎ、えも言われぬ不気味さと美しさがかえってAをこの世のものではないと表現しているようだった。
人間の根底には愛が埋め込まれている、と彼はよく言った。
それは、彼の中で愛が中心として回っているという暗示だった。
愛を正義と置くならば、悪は何が妥当なのだろう、とAは考えていた。
「かわいいは正義。なら不細工は悪なの？」
「え？」
「確かにかわいいは正義かもしれないけど、不細工は別に悪じゃない。
かわいいという存在が強すぎて、対立する存在に不細工が置かれてる、ってだけだよね」
「ごめん何言うてるかわからへん」
学校の休み時間。
Aを探して学校を練り歩いていると、音楽準備室で彼を見つけた。
彼は独り言が大きく、基本どこでも声量は変わらない。
だから俺は、密かに目印にしている。
「じゃあ、愛が正義なら、孤独は悪なのかな」
「…俺はー、寂しいからなぁ、悪とまでは言わずとも、嫌やな」
「そうだね。
最近は、ソロキャンプとか、ひとりカラオケとか、所謂自分と一対一で作業をすることが流行ってるじゃない。
それってきっと、二通りの理由があるからだと思うんだ」
「二通り？」
「ひとつは、ひとりが楽だから。
ひとりで何でもやりたいひとは、要は人付き合いが好きではないひと。
言い換えるなら、そうだね、他人よりも自分と対話したいひとかな。
彼らは他人と居るよりも自分と居ることのほうが有意義だと感じてひとりを選んでいる。
自分をしっかりと見つめられていて、とても立派な選択をしていると思う。自立しているし自己認識能力が高いから、羨ましい限りだね。」
「一人旅とかしたいってひと、結構おるもんな。俺、さみしくて死んでまいそうやわ。」
「照史くんはそうかもしれないね。
じゃあ、もうひとつは、愛を知っている上で愛から逃げてるんだ」
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作者名：ひるた | 作成日時：2023年1月28日 1時
