脳漿炸裂ボーイ【跡部 景吾】

丸眼鏡先輩との出会いそして別れ ページ8

「……はぁ、はぁ、」






暗闇の中で切れる息を必死に整える。






少し身動ぎすれば体に物が当たるここは、

本来人が入っていい場所では無いはずのロッカーの中。






何故こんなところで声どころか息すらも押し殺しているのか。






言わずもがな、あの男から逃げ惑った結果がこれだ。






いくら鍵をかけたシアタールームに閉じこもろうが、

屈強そうな柔道部の見知らぬ先輩の背を勝手に借りて身を隠そうが、

あの男の前ではなんの効力も持たなかった。






平然と鍵を開けてどこへでも入ってくる上に、

退け。の一言で圧力をかけ自分より倍程も

体格のいい男すらも萎縮させる。






そうなれば、もう必然的に

掃除用具になりきる他の策がなかったのだ。






何が嬉しくて掃除用具と一緒になって

ロッカーに押し込められなきゃいけないんだ。






泣き言を言っていても仕方ない。






そんなことは、誰よりも私が分かっている。






それでも、私にはここまでされるほどの謂れはないはずなのだ。






何故彼に追い回される羽目になったのかなんて、

私には皆目見当もつかない。






最初こそ、マネージャーをやれと言われただけで、

ただの部活勧誘かくらいに思っていたというのに。






部活に入るつもりもなく、

帰宅部を謳歌しようとしていたこともあり

断ったまで良かった。






なのに、気づいたらどんどんエスカレートしていた。






彼の重い愛を押し付けられていた。






彼から逃げ惑うことが日常と化していた。

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