9.なにがなんだか ページ10
自分が覚えている頃よりもずっとたくましい腕。
そして、長身の部類に入る私ですらすっぽりと収まってしまう体格。
彼のフェロモンか、はたまた香水でもつけているのかくらくらしてしまう。
ただでさえ、思考が追い付いていない状況ですっかり固まってしまっていると、
「ちょっと黄瀬ちん、邪魔ぁ」
「わっ」
「ぐえっ」
割り込んできた、今じゃ慣れてしまった敦の腕。
モデルとは思えない声が聞えたかと思えば、
敦のバスケットボールを鷲掴みできる大きな手は黄瀬の顔にあった。
「何するんすか、紫原っち!!」
「黄瀬ちん、うるさぁ」
「ああ。うるさいぞ、黄瀬」
泣きわめくも、ここは病室。
二人から注意を受けた黄瀬はしょんぼりとした。
そこで、初めて赤司くんとひなが驚いていないことに気づいた。
まあ、普段からちょっとやそっとじゃ驚かない二人だけど……。
ムッとして振り返れば、顔の前で両手を合わせて苦笑するひな。
彼女の隣にいる赤司くんは涼しい顔で微笑んでいた。
「……知ってたんだ」
「ていうか、無理矢理……ね」
「しつこかったからな」
ひなは申し訳なさそうにしているが、
赤司くんはまるで気にしていなかった。
まあ、今まで一度も会わなかったのが奇跡なのだ。
これだけ頻繁に見舞いに来ても、大学が一緒でも、
会ってもおかしくないのに、全く会わなかった。
会ったらあったで、どうすればいいのかわからないのだが……。
途端に緊張してきて、膝に置いた手に力を入れていると
いきなり腕をすごい力で引っ張られた。
「ちょっと、黄瀬っ」
引っ張った人物に慌てて声をかければ、不機嫌そうに振り返った。
「病室じゃなければ、問題ないっすよね」
「別に騒がなきゃどこでも__」
私を通り越して、その後ろにいるひなたちに言えば、
ひなの呆れる声がした。
そして彼女の言葉を最後まで聞かずに、私たちは病室を出た。
「……いっちゃった」
「上月、荷物持ってないんじゃないか?」
「じゃあ、俺が届けてくるねえ」
そんな会話をされているとも知らずに……。
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作者名:星蛍 | 作成日時:2018年9月5日 23時