10.久しぶりの対面 ページ11
大学生だからおしゃれなカフェ……に入ろうとした黄瀬を慌てて止める。
「なんすか」
「私、今財布ないんだけど……」
「え、どうやって病院来たの」
「あんたが無理矢理引っ張ったから、荷物おいてきちゃったんでしょうがっ」
とんちんかんなことを言う黄瀬に、そう怒鳴ればうるさそうに耳を塞がれた。
「そんな大声出さなくても聞こえるって」
「好きで出したわけじゃないわよ、ばか」
何人かが振り向いたので、声のボリュームを下げる。
自分が目立つのも嫌だが、変装していても目立つやつが一緒なのでいつもより周りを気にする。
黄瀬は全く気にしていないようで、カフェに入ろうと手を引っ張る。
「だから、財布ないんだって」
「それぐらい奢るからっ」
「え、いいよ。やめて」
「なんでそんな嫌そうな顔っ？！」
こんなイケメンに言われたら大抵の女子は落ちるだろうが、私は違う。
今更……。そう、今更……。
「あんたに仮を作るなんて真っ平だから」
すると、見る見る顔を強張らせる黄瀬。
引っ張られていた手の力が緩んだので、するりとその手から逃げる。
そして、そのまま病院へ戻ろうと踵を返した。
黄瀬は茫然としているようで、私がその場を離れても気づいていなかった。
その姿を見て、言いすぎただろうかと少し罪悪感が込み上げる。
「……せっかく、会えたのにな」
結局は会えてもこんなもん。
言い争いしかできない、私達。
下を向きながら、歩いていると肩を叩かれた。
そのとき、一瞬でも期待した自分を殴りたい……。
ばっと振り向いた私はきっと笑顔だっただろう。
だが、そこにいた人物を見て笑みを消す。
「ねえ、彼女ひとり？よかったら」
「ごめんなさい、急いでるので」
ちゃらちゃらした男の言葉を最後まで聞かずに、足早にその場を去ろうとした。
だが、それより早く男が腕を掴んだ。
「ちょっと」
「いいじゃん、ちょっとくらい。ね」
何がいいのよ、ばかやろう。
イライラしていたこともあって、冷静に対処できない。
力任せに誘導する男の脛でも蹴ってやろうとしたとき、
ぐいっと男の力とは比べ物にならない勢いで引きはがされた。
「なにしや」
「は？あんたこそ何してんすか」
今度こそ期待した通りの人物に、胸が高鳴った。
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作者名：星蛍 | 作成日時：2018年9月5日 23時
