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「いらっしゃい!
今日は金時と人参にいいのが入ってるわよ!」
八百屋の若主人である幸恵は、赤ん坊を背負った上からどてらを着るという昔懐かしいスタイルで店番をしていた。
「人参じゃなくてゴボウが欲しいんだ」
「へえ、ゴボウ。
玄師、ゴボウなんか料理できるの?」
「料理はしないよ。
お菓子にするんだ」
「ああ、花びら餅ね」
玄師と幼稚園からの幼馴染みなだけあって、幸恵は言いたいことを察してくれる。
「そうだ。
鏡餅の注文ってまだ受け付けてる?」
「大丈夫だよ。
例年通り、手のひらサイズだけどいい?」
「勿論。
玄師のとこのは美味しいから、沢山あったら食べ過ぎる」
「もう若くないんだし、スタイル維持には気をつけないとね」
幸恵はその豊満な胸を張り、ふふんと鼻から息を吹く。
「私は日々鍛えてますからね、玄師と違って。
玄師こそお菓子の食べ過ぎで、最近丸くなってきたんじゃない?」
ニヤリと笑う幸恵の発言にショックを受け、玄師は自分の頬を撫でる。
いつもと変わらぬシャープさがある、まだ大丈夫と、恐る恐る自分を鼓舞しながら帰路についた。
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玄師は花びら餅を作り上げるのに、通常3日ほどかける。
玄師はゴボウの蜜漬けにじっくりと時間をかけるのだ。
しかし今回は予約日まで時間がないため、2日間で作り上げることにした。
ゴボウを米ぬかで茹で、アク抜きする。
それからもう1度、真水から煮て柔らかくする。
細く切り揃えたゴボウをキビ砂糖と水飴で作ったシロップに漬け、圧力鍋で煮ていく。
短時間でゴボウに蜜を染み込ませたら、鍋ごと翌日まで置いておく。
同時に紅の菱餅を作る。
小豆の渋で色付けし、薄く薄く伸ばしたピンクの餅を1晩寝かせる。
受け渡し当日、白麹味噌と白生餡、水、砂糖をとろ火で練る。
ゴボウはザルに取り、余分な蜜を切る。
鍋に火をかけ羽二重粉と水と上白糖を練り上げる。
固まったら打ち粉をした板の上で冷ます。
乾燥したピンクの餅を焼き色がつかないように焼き上げ、柔らかくする。
冷ました羽二重を丸く型抜きし、餅、餡、ゴボウをのせ、半円状に折る。
「わあ、ピンクがうっすら透けて綺麗ですね。
ほんとにお花みたい」
真衣がしげしげと花びら餅を見ながら、丁寧にお重に詰めていく。
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作者名:井原 x他1人 | 作成日時:2020年6月14日 11時