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1本目の餅花が出来上がった時、カランカランとドアベルを鳴らして、常連の城内弥恵が入ってきた。
茶道の師匠をしている弥恵は、いつも通りのピシッとした和服姿だ。
「いらっしゃいませ」
真衣が元気よく出迎える。
弥恵は出来上がった餅花を見て溜息を吐いた。
「綺麗な餅花。
まるで梅が咲いているみたい」
玄師は弥恵に向かって嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます。
どんど焼きの火でも楽しめるよう、しっかりついた餅ですよ」
「何本か頂こうかしら」
「これはうちではなく、隣の花屋さんで販売するんです」
「そうなのね。
じゃあ、後でお隣に行かなくちゃ」
弥恵の言葉に真衣は�爐�隣から宣伝費を貰いたい�瓩反瓦涼罎婆�かに呟いた。
弥恵は真衣に向き直ると、にこやかに口を開いた。
「今日は予約に来たのよ。
花びら餅を作って頂きたくて」
「花びら餅、ですか？」
首を傾げそうな真衣の言葉を遮って、玄師が軽く返事を返す。
「明日までにはご用意できます。
いくつご入り用ですか」
「20個頂けるかしら。
明日受け取りに参りますので」
「承知致しました。
美味しいものを作ってお待ちしています」
予約票を書き終わった弥恵が店を出ると、真衣は玄師に尋ねた。
「花びら餅って何ですか？」
「求肥と赤い餅とゴボウ、それから白味噌餡を包んだ餅菓子だよ」
「ゴボウ！？
お菓子なのにゴボウですか。
なんで？」
「元々花びら餅は、宮中のおせち料理からできたと言われてるんだ。
白味噌はお雑煮を、ゴボウは押鮎という料理を表しているそうだよ」
「おせち料理だからお正月に食べるんですか？」
「そうだね。
お茶事だと初窯の席で使われるんだけど、城内さんはお正月から使ってくれるんだね」
真衣は首をひねって尋ねる。
「ゴボウとお餅と味噌だけなら美味しそうですけど、やっぱり甘くするんでしょう？
美味しいんですか？」
玄師は微笑んだ。
「勿論、美味しく作りますよ」
出来上がった餅花をお隣の花屋に納品してから、玄師は商店街へゴボウの仕入れに向かった。
空気は冷たいが風は無く、過ごしやすい陽気だ。
「いらっしゃい！
今日は金時と人参にいいのが入ってるわよ！」
八百屋の若主人である幸恵は、赤ん坊を背負った上からどてらを着るという昔懐かしいスタイルで店番をしていた。
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作者名：井原 x他1人 | 作成日時：2020年6月14日 11時
