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だから私は、一日でも早く、玄師くんが私ではない誰かを好きになってくれることを願っている。
ーー私は、その想いに応えられないから。
玄師くんが私に『告白』するのは、一日に一度だけ。
たぶん、応えられない私を気遣ってのことだと思う。
そういう人なのだ。
そういう人だと知っているからこそ、早く私から心を離してほしいのに、現実はそうそう思い通りにはなってくれない。
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呪いの保有者かどうかは、幼少期の検査でわかる。
そこでどんな内容の『呪い』を保有しているのかを知って、どんなふうにそれと付き合っていくかを決めるのだ。
『呪い』には潜伏期間があって、多くは思春期以降に発症ーー要するに表面化だーーする。
玄師くんが『人魚姫』の『呪い』を発症したのも半年ほど前のことだっあた。
『いきなりごめんね、佐賀さん。
ーー俺、キミのことが好きなんだ』
申し訳なさそうな表情で、だけど真っ直ぐ私を見つめて。
いつもは柔らかな声色が、少しだけ硬くて。
嘘でも冗談でもないのだと、その瞳と声が告げていた。
言わなければ、伝えなければならないのだと、初めて見る車椅子姿が告げていた。
それは玄師くんの『人魚姫』の『呪い』が発症した翌日だった。
玄師くんが『人魚姫』の『呪い』を持っていることを、その時初めて知った。
現在、『呪い』の保有者は人口の約半数と言われている。
だから、玄師くんの突然の『告白』に、驚きながらも得心した。
そしてーー『よりにもよって』と、初めての告白を前に思ってしまったのは、私にとっては仕方のないことだった。
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『呪い』の発端は、一人の生物学者の男が、一人の女性への恋に狂い、愛に妄執したことにある。
たった一人の女性を呪うため。
『彼女』への『呪い』が成立する世界にするため。
自分ではない人物と幸せに暮らす想い人への、『好きな人に想いを伝えると死に、相手にその呪いが移る』ーーその限定的で強力な『呪い』を成立させるために、世界中を混乱に陥れた。
その結果、現在に至っている。
一般に知られていないそれらの事情を私が何故知っているのか。
その理由は至極単純だ。
私が、発端になった呪いの保有者だから。
勿論、私が呪いをばら撒いた男の想い人であるわけじゃない。
呪いをばら撒くと同時に死んだ男と、私が出会うはずがない。
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作者名:井原 | 作成日時:2021年1月14日 23時