フリ ページ10
｢なら、ちょっと頼まれごとしてくれへん？｣
｢へ？｣
その思いがけない言葉に目を白黒とさせる。
頼まれごととはなんだろうか。
｢いや、なに簡単なことやねんけど…｣
｢…で、簡単なことって、これですか…｣
私は鬱先生とともに街へと繰り出していた。
『ちょっとオシャレな格好して、一緒に街歩いてくれへん？』
なんて言われて、特に詳しい理由も聞かずに着替えてきたらこれだ。
｢いや、本当に申し訳ありません…。凄いしつこい女の子が居って、その子が『彼女が本当に居るなら諦めます』って言うもんやから…｣
｢なんか凄い人ですね…諦めがいいのか悪いのか…｣
｢それについては全く同意見ですわ…。訳分からんわ…｣
｢ということは、私は鬱先生の彼女のフリをしろと…｣
｢…はい｣
あらためて確認をして、2人して黙り込んでしまう。
鬱先生も言い出した手前、こんな理由で申し訳がないのだろう。いつもより少し縮こまっている。
｢ん〜…、こういうのは全くと言っていいほど経験がないのでよく分からないのですが…｣
｢それについては任しときや！張り切ってエスコートしたるで｣
｢ああ…、えっと、じゃあ…、お願いします｣
そう言って、鬱先生の手を取り歩き出した。
｢おそらくなぁ、その子、街中のどっかで見とるはずやから｣
｢えっ、ストーカーですか…？｣
｢うん、恐らくその類になりかけてる｣
｢…うわぁ…｣
｢せやから、こうやって―｣
グイと肩を抱かれ、鬱先生の方へと引き寄せられる。
｢距離が近ければ、勘違いしてくれへんかな…って｣
顔をあげれば鬱先生の顔が近くに。
名案やろと笑う顔を見て、顔が熱くなるのを感じる。直ぐに顔を逸らすが、見られていたようで｢顔真っ赤やで｣と笑われる。
｢も…もう…！行くんですよね…！？行きますよ！！｣
｢おっ、なんや積極的やなぁ。ホテルにでも行くか？｣
｢…帰っていいですか｣
｢ごめんなさい。嘘です。とりあえず広場にでも行こか｣
あそこなら人目も多いし、行けるやろ、という鬱先生に連れられ広場へと向かった。
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作者名：にこ† | 作成日時：2019年10月27日 7時
