さん ページ3
あれは俺達が16になる年だった。
いつものように手合わせしていつものように負けて。
村長の娘である香が隣村の男と結婚する事になったとAに聞かされた。
いつもより元気がないのはそういう事か、と合点がいった。
「そりゃ祝い事じゃねえか。なんでそれでお前が元気なくすんだよ?・・・寂しいのか?」
確かにそれもある。でも、とあいつは続けた。
「香さまがいなくなったら、私は、これから何を守るために生きればいいんだろう。
なんのために生きればいいんだろう。」
そこで俺は初めてAの強くなるための理由を、生きる理由を知った。
この時にはもう、俺はこいつのことを意識していたから、少しの寂しさと嫉妬とでよくわからない感情になっていた。
俺は、こいつの生きる理由になりたい。
でも俺はまだこいつには勝てない。
そんな力の無い俺がもどかしくて、今のAを抱きしめることも出来なくて。
今の俺には、
「そんなの決まってるだろ。
俺を守るために生きればいい。
俺の背中を預けられるのはお前だけだからな。」
こんな情けなくてずるい言葉しか言えなかった。
「・・・ふふ、蛮骨ってば生意気だねぇ」
それでもお前が笑ってくれるなら。
それでもいいと思えたんだ。
俺の隣でいつまででも笑っていてくれるなら。
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作者名:唯一無二 | 作成日時:2019年7月28日 17時