【d!】傾国の天使。 (ページ9)

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９△ 天使が舞い降りた日ページ9

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　不敵な笑みを浮かべ、誰よりも気高くそこに佇むお嬢様をみて、俺は初めてお嬢様に出会った時の事を思い出す。
　お嬢様の目はいつだって不安げに揺れてるのにお嬢様の心には不安なんてものはこれぽっちも抱いてなかった。

　⋯⋯初めて会ったお嬢様は自分好みの執事を探しているらしく、不貞腐れた様子で次々と目の前に来る執事候補を「却下ね、もう行っていいわよ」と流していた。中にはこの国の第一皇子に引けを取らないイケメンだっておんのにお嬢様はまるで興味ないと言いたげに次々と執事候補を帰らせて行く。
　噂の第一皇子の婚約者さんは随分と傲慢で我儘らしい。

　スパイとしてこの国に潜り込み、俺もくられ先生が作った薬で人並み以上の顔にはなってはいるけどこれは潜り込めそうにないなぁ、と溜め息をつく。しょうがない、別の所で情報を漁ろうと諦めていた。

「ノワール」

　そしてそのまま俺の番が来て、上から下までじーっと見られると「惜しいわね⋯⋯、帰っていいわ」と予想通り俺は帰された。その時、お嬢様の目が帰り間際まで俺を追っていたことなんて知らずに
　それから結構長い時間待たされたせいで薬の効力が切れそうな俺はそそくさとその部屋を立ち去った。薬の効力が切れる前に屋敷の中の物陰に隠れると、みるみると身体が縮んでいく。

　その瞬間だった。

「私、貴方がいい！！！」

　唐突に後ろから声をかけられた。声の主は先程まで部屋で見ていたはずのお嬢様、ローズクォーツのような瞳をキラキラさせて俺を見上げていた。戸惑う俺。

「あ、⋯⋯ぇ？本気で言ってますそれ」
「ええ、勿論！！」
「こんな不細工ですけど、」
「そんなの関係ないわ、大事なのは心でしょう？」

　その瞬間、天使が舞い降りたのかと思った。あんなに傲慢で高飛車に見えたお嬢様が誰よりも美しい存在に見えたんや。
　異性と真っ直ぐ目を合わせるなんて初めてで、何だかぎこちなくなる。それでもお嬢様は俺の手を握った。醜くて、嘘だらけで汚れている俺の手を天使が握っている。

　もちろんアントネラの中で大事なのは心じゃなくて顔なのだが如何せんチーノも盲目だ。

「ノワール、私の執事になってくれる？」
「⋯⋯チーノです、お嬢様」

　そのたった一言でチーノは生まれて初めて恋に落ちてしまった。

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