7話 ページ9
「おいおい殴るこたぁねーだろ新八ぃ。」
酒飲んでたんだからしゃあねぇだろ俺だって好きで襲った訳じゃないんですぅ、と頭に新しい突起物を作りながら唇を尖らせる。
そんな銀時を細い目で眺めながら、酔いの覚めたであろう銀時のたんこぶに手を伸ばし鷲掴みにして力を込めた。
「いだだだだだだてめぇなにすんだごらぁ!!」
「報い。」
「痛いから!それマジで痛いからそれおい!!もげる!!ちょ!ごめんごめん!!」
「え、何?聞こえない。」
「耳引きちぎるぞチビ!!離せっつってんだろが!!」
勝手に人の身体を締め付けておいて尚、何も反省していない様子の銀時に少々苛立ちを感じたが、そんな銀時を見て昔の事を思い出す私も重症だ。
じたばたと暴れる銀時の背中をばしりと叩いてからたんこぶから手を離した。
「いってぇ...。
流石お嬢さん、その乱暴さ加減は変わってないんですね。...あ、もうお嬢さんって言える歳でもないか。」
「...相変わらず減らず口が絶えない...メガネくんもこんな奴と一緒にいたら殴りたくもなるよねえ。大変ですね。」
私がそう言うとメガネくんは、ハッとした表情で此方を見据えた。
さっきまでどうやら考え込むように私達のやり取りを眺めている様子だったが、一体何をそんなに考える事があるのだろうか。
まさか私の事を知っているのだろうか。
...もしや、この子は攘夷浪士か..?
不意にそんな事を思って、一気に思考が広がる。
もし万が一そんな事があったとしたらすごい大事だ。
私が江戸に来ている事が広まってしまったら...
そう思ってひとりでにぞっとする。
私は静かに、攘夷浪士疑惑のあるメガネくんの口が開くのを待った。
「あの...」
「なんだぁ新八ぃ、そんなもじもじして。
早く便所行ってこい。」
「いや、別に催してるわけじゃないんですけど。
あの...」
思わず生唾を飲んだ。
これから紡ぐ言葉に万が一、私が不利になる情報が出たならば
それなりの処置は取らなければならない。
口を塞ぐなり、喉を切り裂くなり、脅すなり、
面倒臭い事だらけだ。
「あの...
銀さんと、この方の関係って...?」
思わず、ふぅっと息を吐く。
なんだそんな事か、と胸を撫で下ろした。
今思い返してみれば、自分の仕事場の社長と見知らぬ女(しかもその女は仮面着用である)が抱き合っているのだ。普通に考えて驚き以外の何物でもないだろう。
私は軽く安堵の笑みを浮かべた。
「ただの、腐れ縁だよ。」
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作者名:花流 | 作成日時:2019年2月11日 15時