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2.硝子細工の口約束 ページ10

「うわぁ、遅なったなぁ」


午後8時の昇降口。

私より一足先にスニーカーを履いて外に出たセンラくんは、空を見上げながら呟いた。


「そうだね」


ローファーの(かかと)に指を差し込みながらその隣に並び、相槌を打つ。

センラくんの言う通り、空はすっかり暗くなってしまっていた。
いくら日が長くなったと言えども、夜8時は年中こんなものだろう。


それよりも私は、隣の人に気を取られてばかりだった。

隣の人ーーセンラくんは、とても告白した後だとは思えないほどに落ち着いていて、へらりと私に笑いかける余裕すらある。


(肝、据わり過ぎじゃないかな)


意図せずとも、口元に苦笑が浮かんだ。


「こんな遅なったの初めてやわぁ」

「え……あ、そっか。センラくん文化部だったね」


センラくんの何気ない一言で、私は改めて彼が文化部だということに気付いた。

なにせセンラくんは運動もそこそこできる。
勝手に、脳内で運動部だという印象が焼き付いていた。


「ごめんね。軽音部、忙しいのに」


軽音部。
それが、センラくんの所属する部活の名前。

初めてそれを知った時、少し「意外だな」と思ったのが印象強い。

……今となっては、彼が軽音部に所属していることは校内外に知れ渡っていることなのだけれど。


この高校の軽音部は、「部活」という言葉では収まりきらないほどの人気を有している。
それはもう、ここら一帯だけで言えば、一般のインディーズバンドと肩を並べるくらいには。

その原因は、言わずもがな彼ーーセンラくんだ。

いや、正しく言えば、彼とその友人達。
つまりは、部員が凄いのだ。

主に、顔面偏差値と実力的な意味で。

モデル顔負けの美麗な顔と、確かな実力。
それに惹かれたファンたちに囲まれた彼らが、忙しくないわけがない。

おまけに、確か夏休み中にひとつ公演がある、なんていう話を聞いたことがある。

それに向けて猛練習の真っ只中だろうに、センラくんは生徒会の仕事に時間を割いてくれているのだ。

申し訳なさを感じずに、何を感じるのだろう。


ぽつ、と自然と零れた謝罪の言葉に、センラくんは少し呆れたように頬を緩めた。


「だから、Aは何も悪ないよ。部活は大丈夫、心配せんといてぇや」


……呼び方がいつの間にか「A」になっていることは、この際触れないでおこう。
私も彼のことを「センラくん」と名前で呼んでいるのだから、結局はお互い様だ。

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acotatta(プロフ) - とてつもなく面白いです...!!夢主ちゃん可愛いし描写うますぎませんか?! 応援してます〜!! (2019年9月18日 0時) (レス) id: 8be6c7c599 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年9月16日 18時

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