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「はい、この話おーわり。帰るでー」
「え、あ、待ってよ」
ぽん、と手を叩いて話を切ったセンラくんが、校門に向かって歩き出す。
特に「一緒に帰る」と決めたわけでもなかったのに、つい反射的に隣に並んでしまった。
このままじゃ、一緒に帰ることになるのでは。
そもそも、センラくんってどこに住んでるんだろう。
くるりくるりと頭を回り出す疑問と懸念に答えを付けようと、私は口を開くーーが。
それを、彼からの問いが柔らかく遮った。
「A、家どこ?」
見上げた先で、月に照らされた瞳が私を見つめている。
「えっとーー」
慣れ親しんだ名前、慣れ親しんだ単語。
少し戸惑いつつも街の名前と最寄り駅を伝える。
すると、センラくんは一瞬目を見張った。
「え……俺もその街住み、で、最寄りもその駅、なん、やけど」
動揺で途切れ途切れになった言葉に、次は私が目を見開いた。
驚愕が呼んだ沈黙が、静かに広がる。
もしこの世に神様というものが存在するのならば、きっとこの事は
それくらいの偶然だった。
贅沢すぎる、偶然だった。
本来、彼と同じ街に住んでいて、同じ駅を使うなんて、この高校の女子からしたらそれ以上ないくらいの光栄なのだから。
だというのに、今この瞬間では、圧倒的に私よりもセンラくんの方が「光栄」の言葉に当てはまっていた。
「え、うわ……嬉しすぎてやばい」
「……そんなに? 大袈裟だよ」
「や、大袈裟なんかやないで……ほんと」
心底嬉しそうな様子のセンラくんの声。
彼のことは、ずっと
私よりもずっとずっと上に立つ存在として。
スクールカースト、なんていうほど大袈裟な身分制度は、この学校にはない。
ない、けれど。
人間の間には、自ずと存在するものだ。
直感的に、本能的に感じる、曖昧だけれど確かな、形のない「身分」が。
甘いマスクと、その中に注がれた温和な性格。
私を「庶民」だとするならば、彼はきっと「王子様」だろう。
だから私は、彼をどこか敬遠していた。
私なんかが関わっていい存在ではないと、どこか避けていた節があった。
同じ生徒会なのに今まで会話が少なかったのも、きっとそのせいだろう。
……でも。
「はー……やば……」
隣でふわりと頬を綻ばせるセンラくんに、今まで敬遠していた理由は見つからない。
ーー隣を歩く彼は、紛れもない、私と同じ「高校生」だったから。
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acotatta(プロフ) - とてつもなく面白いです...!!夢主ちゃん可愛いし描写うますぎませんか?! 応援してます〜!! (2019年9月18日 0時) (レス) id: 8be6c7c599 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年9月16日 18時