検索窓
今日:1 hit、昨日:1 hit、合計:38,944 hit

ページ11

「はい、この話おーわり。帰るでー」

「え、あ、待ってよ」


ぽん、と手を叩いて話を切ったセンラくんが、校門に向かって歩き出す。
特に「一緒に帰る」と決めたわけでもなかったのに、つい反射的に隣に並んでしまった。

このままじゃ、一緒に帰ることになるのでは。
そもそも、センラくんってどこに住んでるんだろう。

くるりくるりと頭を回り出す疑問と懸念に答えを付けようと、私は口を開くーーが。

それを、彼からの問いが柔らかく遮った。


「A、家どこ?」


見上げた先で、月に照らされた瞳が私を見つめている。


「えっとーー」


慣れ親しんだ名前、慣れ親しんだ単語。
少し戸惑いつつも街の名前と最寄り駅を伝える。

すると、センラくんは一瞬目を見張った。


「え……俺もその街住み、で、最寄りもその駅、なん、やけど」


動揺で途切れ途切れになった言葉に、次は私が目を見開いた。

驚愕が呼んだ沈黙が、静かに広がる。

もしこの世に神様というものが存在するのならば、きっとこの事は(はか)った物事に違いない。

それくらいの偶然だった。
贅沢すぎる、偶然だった。

本来、彼と同じ街に住んでいて、同じ駅を使うなんて、この高校の女子からしたらそれ以上ないくらいの光栄なのだから。

だというのに、今この瞬間では、圧倒的に私よりもセンラくんの方が「光栄」の言葉に当てはまっていた。


「え、うわ……嬉しすぎてやばい」

「……そんなに? 大袈裟だよ」

「や、大袈裟なんかやないで……ほんと」


心底嬉しそうな様子のセンラくんの声。


彼のことは、ずっと(はた)からしか見ていなかった。

私よりもずっとずっと上に立つ存在として。

スクールカースト、なんていうほど大袈裟な身分制度は、この学校にはない。

ない、けれど。

人間の間には、自ずと存在するものだ。
直感的に、本能的に感じる、曖昧だけれど確かな、形のない「身分」が。


甘いマスクと、その中に注がれた温和な性格。

私を「庶民」だとするならば、彼はきっと「王子様」だろう。

だから私は、彼をどこか敬遠していた。
私なんかが関わっていい存在ではないと、どこか避けていた節があった。

同じ生徒会なのに今まで会話が少なかったのも、きっとそのせいだろう。

……でも。


「はー……やば……」


隣でふわりと頬を綻ばせるセンラくんに、今まで敬遠していた理由は見つからない。

ーー隣を歩く彼は、紛れもない、私と同じ「高校生」だったから。

*→←2.硝子細工の口約束



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (108 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
379人がお気に入り
設定タグ:歌い手 , センラ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

acotatta(プロフ) - とてつもなく面白いです...!!夢主ちゃん可愛いし描写うますぎませんか?! 応援してます〜!! (2019年9月18日 0時) (レス) id: 8be6c7c599 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年9月16日 18時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。