好きになんてならない。【センラ】 (ページ12)

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気付けば、家の前に着いていた。

道中の会話はほとんど頭に残っていない。

学校から駅まで、電車の中、駅から家まで。
結構距離はあって、時間もかかったはずなのに。

ただ、センラくんが振ってくれた話題に私が答えて、上手く繋げる。
それの繰り返しだったことが、ぼんやりと頭に靄(もや)がかって張り付いていた。

腕時計に目をやれば、もうすぐ短針が９を指そうとしている。

「ごめんね、こんなに遅くまで。ありがとう」

家の門に手をかけ、開きながらセンラくんを振り返ると、センラくんは少しずり落ちたスクールバッグを肩にかけ直しながら笑った。

夜の闇の中でも、その笑顔は確かな存在感を放つ。

「どういたしまして……って言うても、夜道を送るとか男の義務みたいなもんやしなぁ」

刻まれた笑みに、苦笑が混ざる。

その自称「男の義務」、当然のようにできる人は意外と少ないんだよ、なんて。

そんな返事が思い付くけれど、ぐっとそれを飲み込んだ。

「それでも、ありがとう。……じゃあ、気をつけて帰ってね」

「ばいばい」と手を振って、彼に背を向ける。

彼の精巧な顔が見えなくなって、見慣れた我が家が目に飛び込んでくる。

リビングに灯る暖かな光は、家族の温もり。

どっと胸になだれ込んでくる安心感と一緒に、私は門を抜けて、敷地内へ。

「あ、A」

その背後に、センラくんの声がかかった。

答えない理由もない。
自然な流れでふらりと振り返ると、そこにはさっきと変わらないセンラくんの姿。

「明日の朝、作業する？」

「あー……」

口元に浮かぶ、苦笑い。
確かに、あの量の仕事は朝も進めなければ終わらないかもしれない。

「……そう、だね。うん、そうしよっか」

その返事に、センラくんは「りょーかい」と小さく微笑んだ。
……その微笑みに微かな喜びが滲み出ているのは、私の気のせいだと思いたい。

「何時にしよっか」

「んー、せやねぇ。……Aに任せるで」

「……じゃあ７時」

「はっや」

「まあええけど」と鞄からスマホを取りだし、操作するセンラくん。
アラームかタスクでもセットしているのだろうか。

「……ん、おっけ。じゃあ７時に学校な」

「うん。じゃあ、改めてばいばい」

ひら、と改めて手を振れば、センラくんも右手を振り返してくれる。

振り返って、明かりの灯る我が家へ。
前に踏み出した一瞬、後ろをちらりと振り返るけど。

センラくんはもう、身を翻して歩みを進めていた。