好きになんてならない。【センラ】 (ページ13)

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「……まぁ、こうなるよね」

呟きの矛先は、隣に立つ男子高校生。

人のまばらな朝の駅で確かに紡がれたそれは、きちんとその相手に届いたようで。

彼も、苦笑を浮かべて答えた。

「同じ駅使うてて同じ時間に学校行かなあかんのやからね。……まぁ駅で鉢合うよな」

隣に立って電車を待つのは、他の誰でもないセンラくん。
私が昨日、朝７時に学校での仕事の約束をしたあのセンラくん。

「最初から駅集合でも変わらなかった気がする」

「せやね」

へらりと笑うセンラくんは、どこか少し眠そうだ。
もしかするとこの人、朝は弱いタイプなのかもしれない。

……いや、にしても、だ。

(センラくんと登校なんて、見つかったら女子に殺される……)

陰鬱な溜め息を吐き出しそうになって、堪えた。

今がまだ朝早くだということが不幸中の幸いか。

今の時刻は６時半。
学校に着く頃はまだ７時前くらいだろう。

私たちの通う高校の登校完了時間は８時半。
人が一切いないとは思わないけれど、センラくんガチ勢の人たちはまだ登校していない……と思う。

いや、そう信じたい。
……そうじゃないと困る。

「……ーい、A？おーい、大丈夫ですかぁ」

「へっ！？ ……あ、ごめん、ぼーっとしてた」

どうやらセンラくんが話しかけてくれていたらしい。
全く気付かなかった。

いけない、ぼーっとし過ぎだ。

我に返った私に、センラくんはくすっと笑った。
悪戯っ子のような笑みが、その端正な顔に刻まれる。

「可愛い」

「……っ、冗談やめて」

「冗談ちゃうのに」

あぁ、そうだった。

(私、この人に告白されてるんだった……！)

センラくんがあまりにも普通過ぎて、半ば忘れかけていた。

言われ慣れていないその言葉に、私は軽く動揺してしまう。

普通に考えて、奇妙な話だ。

振られた相手に対して、この人は普段通りなどころか甘い台詞を吐くだけの余裕があるのだ。

今の学校生活において、最も敵に回してはいけない人。
最も気を許してはいけない人。

最も謎で、不思議で、掴めない人。

「……あ、電車来たで」

「うん」

乗り口に近付くその人の背中を追う。

そのスラリとした後ろ姿には、彼の人柄が垣間見えた。

(なんで、こんな人が……)

彼の言った「好き」の一言が、全く理解できない。

どうして、私を？
本当に、入学式に一目惚れしたの？

……なんて。

彼の気持ちには、応えられないのに。
そんなことを考えてしまう、醜くて残酷な私。