＊ ページ43
小さな丘、緑の絨毯を踏み締めて。
見上げれば、悠然と聳える大樹の桃色の着物が視界を覆う。
村の中、一応人目の少ない道を駆け、私は夏桜の木がある丘へとやって来ていた。
(やっぱり、大きい)
小さい頃に見て、その大きさに驚いた記憶があるけれど、こうして成長して見てみても、やはりその大きさは確かなものだった。
それは、堂々たる佇まいでそこにある。
そして、なにより。
「綺麗……」
儚く散る花弁が魅せる、薄紅色の夢。
ひらりひらりと散りゆくその欠片に手を伸ばせば、着物の袖がするりと腕を伝って落ちた。
蘇る、あの時の映像。
桜の下で、別れを告げたこと。
ぽろりと零れた涙。
印象深く切り取られた、指切りの瞬間。
強く脳裏に焼き付いているはずーー
ーーなのに。
「……っ、なんで」
思い出せない。
思い出したいのに、思い出せない。
あの瞬間、ここで契った、やくそく。
私の中で膨らむ悔しさと罪悪感に強く唇を噛めば、歯が薄皮を破って痛みが走った。
舌に触れる鉄の風味。
それは正しく、罪の味。
(これじゃもう、みんなに見せる顔が……)
今まで散々お世話になったのに、昔の約束を忘れました、なんて。
とてもじゃないけれど、口が裂けても言えない。
ますます膨張する悔恨に、私は無意識に手を強く握りこんでいた。
少し伸びた爪が手のひらに食い込んで痕を残している。
右手のそれを、左手の指先でそっと撫でたーー
「やっぱり、ここにいた」
「っ、え……！？」
ーー刹那、背後から声が響いて、私は勢いよく振り返った。
そこにあったのは、陽光の下で透き通るふたつの宝石。
うらたくんと、坂田くんだった。
「様子見に行ったら居らへんのやもん！ びっくりしたぁ」
「あ……ごめん、なさい」
心の震えが、唇の震えへ。
唇の震えが、声の震えへ。
あまりにも弱々しい謝罪の言葉が、口先に落ちた。
それを拾ったのであろう二人は、一瞬ぴくりと眉をひそめて。
ゆったりと、でもしっかりした足取りで私に歩み寄り、気付けばその姿は目の前にあった。
「……どうした？ そんなに……泣きそうな顔して」
「っ、何でも、な……い」
咄嗟に飛び出た嘘と、無意識に背けた顔。
それを、うらたくんはーー
ーー余すことなく、全てを掬い上げる。
頬に感じるのは、彼の手の温もり。
眼前にあるのは、真っ直ぐに私を見つめる嘘偽りのない目。
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ちょこ - 更新が止まってます！戻ってきてください！続き楽しみに待ってます！ (2020年7月11日 23時) (
レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
狐 - 続きがきになる・・・更新頑張ってください！ (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい！更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！ (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星奈 ふゆ | 作成日時：2019年7月21日 16時
