陸/偶然の救出 ページ22
「ーーで、今に至るんだ」
とにかく話をしよう、と布団の傍に腰を下ろしたみんなに状況を説明して貰った私は、センラ君が淹れてくれたお茶を見つめながらただただ呆然としていた。
(もし、センラ君のお隣さんの親戚の方が、私のことを見かけてなかったら……)
ぞく、と、嫌な悪寒が背筋を伝う。
その出来事がなければ、私は永遠に牢の中だったのかもしれないのだから。
助けられたのが「偶然」だという事実に身体が震えてしまい、慌てて湯のみの緑茶を口に含む。
一瞬、ほんの一瞬だけ、座敷牢に入る前にお父様とお茶をした光景が脳裏を過り、むせ返りそうな程の畏怖に包まれるーーけど。
「A、落ち着け。大丈夫や」
そっと、背中を撫でてくれる大きな手。
その手に背を押され、口の中のお茶の温もりを、込み上げてきた畏怖と一緒にゆっくりと喉の奥に押し込んだ。
「大丈夫、心配すんな。今は俺らもおるから、な?」
「……っ、しま、くん」
私の身体が震えていたのに気付いたのか、壁に背を預けていたはずの志麻くんが真っ先に動いてくれていた。
三人も、心配そうに私を見つめている。
湧き出た申し訳なさを隠すように、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。
最後に一度だけ咳をして、無理やり口角を持ち上げた。
「ごめんね……」
「ん、気にすんな」
ぽんぽん、と軽く頭を撫でた温もりに少し目を細めて脱力すると、それと同時に辺りの空気も緩んだ気がした。
再び居た堪れない沈黙が場を包みそうになって、私はおずおずと口を開く。
少し、気になっていたことがあったのだ。
「……お屋敷に火を放ったのって、みんななの?」
そう問いかけた私の視界に、あの燃え盛るお屋敷の中がチラつく。
身体を包む熱気も、宙を舞っていた塵も、今でも鮮明に思い出すことが出来た。
みんなの表情が一瞬だけ、なんのことだと言いたげなぽかんとしたものへと変わり、そしてすぐに少し慌てたように弁明し始めた。
「いやいや、さすがに燃やしはしねーよ!」
「あれは……別の馬鹿がやったことです」
「別の、馬鹿?」
首を傾げる私に、センラくんは溜息を吐いて言葉を続ける。
「どこから情報を掴んだのか知らへんけど、別の賊……A狙いの人攫いも侵入してはったんですよ」
「……へ? じ、じゃあ……」
有り得たかもしれない別の結末に、再び震える身体。
「俺らがあの日に助けに行ってなければ、お前は攫われてたかもしれない……ってことだ」
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ちょこ - 更新が止まってます!戻ってきてください!続き楽しみに待ってます! (2020年7月11日 23時) (レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
狐 - 続きがきになる・・・更新頑張ってください! (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい!更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:星奈 ふゆ | 作成日時:2019年7月21日 16時