ｰ翡翠との記憶ｰ ページ21
今から十数年前。
まだお母様が生きていて、私が城外に出ることを認められていた頃のこと。
私は一度だけ、ほんの一週間だけ、お父様に連れられて城下町外の視察に行ったことがあった。
初めて見る「村」というものに、城下町とは違う穏やかな雰囲気に、やけに心惹かれたのを覚えている。
その村には、不思議な桜の木があった。
私が村を訪れたのは夏。
桜の木なんて、既に葉桜と化してしまっているはずなのに。
その桜の木だけは、まるで春景色のように、華やかで美しい桃色の花を咲かせていたのだ。
ぼんやりと、その桜を見つめていた時。
そんな時に出会ったのが、彼だった。
「きれいだろ？」
そうかけられた声に振り返った先には、緑色の瞳があった。
特に何も考えずにこくん、と頷くと、少年は何故か嬉しそうに笑って駆け寄ってきた。
隣に並んで桜を見上げた少年につられ、私も再び桜を見上げると。
「なつざくら、っていうんだって。春じゃなくて、夏に咲くさくら」
「そう、なん、ですね」
そう教えられ、厳しく教えこまれた幼いながらの敬語で答えると、少年はきょとんと首を傾げて私を見つめた。
「なんで、そんな話し方なんだ？」
「……そう、教えられたのです。私は『おひめさま』だから、と」
幼かった私は、「姫」という立場がいまいちよく分かっていなかった。
ただただ言われるままに敬語を使っていた記憶がある。
そうやって薄く殻を張っていた私に、彼はーー
「でも、おれと同じ『にんげん』の女の子だろ？ そんなにとくべつなことじゃないよな？」
ーーそう、優しく踏み込んできてくれた。
「……とくべつでは、ない……」
繰り返した私の手を、彼はそっと取って。
「おれ、うらた！ お前は？」
ぽかんとしたような表情の私に対して、彼ははにかむような笑顔を浮かべ、そう言ったのだ。
「……A」
小さく呟いた私に、彼はまた嬉しそうに微笑んで。
「A、だな！」
ぐい、と私の腕を引き、駆け出そうとする。
前につんのめった私に、彼は振り返って言った。
「おれのともだち、紹介する！」
ーー初めてだった。
あんなにも気さくに話しかけてくれた人は。
ずっと、身分の違いで一線置かれていたから。
ずっとずっと、友達なんていなかったから。
「……っ、うんっ！」
あの日、あの時、あの瞬間から。
彼はーーうらたくんは、私の初めての「友達」になったのだ。
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ちょこ - 更新が止まってます！戻ってきてください！続き楽しみに待ってます！ (2020年7月11日 23時) (
レス) id: 5ad0b4ef6a (このIDを非表示/違反報告)
あういえお - ぐへへ...((え、すげー...みんな言葉使いが...おしとやか...(?) (2019年7月25日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
もうふ - きゃぁぁぁぁ(( 好き。(笑) (2019年7月23日 22時) (レス) id: bc132d7752 (このIDを非表示/違反報告)
狐 - 続きがきになる・・・更新頑張ってください！ (2019年7月22日 20時) (レス) id: 7ea13ff707 (このIDを非表示/違反報告)
あいうえお - すんばらしい！更新頑張ってくださいねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ！ (2019年7月22日 14時) (レス) id: 473868f78a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：星奈 ふゆ | 作成日時：2019年7月21日 16時
