６. ページ6
・Aside
その日はいつもと同じく平和だった。
ローズハートとお茶会の約束をして、
キングスカラーと昼寝して、
アーシェングロットの店の手伝いをして、
アルアジームと宴をして、
シェーンハイトに化粧落としをしてもらって、
シュラウドとゲームをして、
ドラコニアと夜中に話をした。
明日もそうだと思っていた。
ただ、そんな筈もなく、急に学園長に呼び出された。
真っ赤な髪を梳かして、自慢の黄金の瞳を見つめながら制服に着替えて、最後にお気に入りの黒い帽子と赤いパーカーを羽織って集合場所に行った。
ー
それは夜中のことで、
学園長に呼び出された場所は、あの穴の前だった。
何を言われるかなんて、分かっていた。
俺はドラコニアの次に魔力が高い。
俺になくて、ドラコニアにあるもの。
それは、権力だ。
次期妖精王と名のあるドラコニアに比べ、
俺には玩具会社の社長の息子というものしかない。
魔力の高い者を生贄にするのは決定事項に近い。
ならば…。
後ろの穴をちらりと見つめ、真っ黒な空間に息を呑む。
最初から生贄になることなんて分かっていた。
ローズハートの目は真っ赤だし、
キングスカラーの尾は昼寝中巻きついてくるし、
アーシェングロットは明らかに甘ったれだし、
アルアジームは踊りながら泣いてたし、
シェーンハイトは何かを我慢するように唇を噛んでいたし、
シュラウドはゲーム中に急に泣き始めたし、
ドラコニアはどこか上の空だった。
楽しかったなあ…。
この穴に吸い込まれたら、俺はどうなるのだろうか。
学園長に想定内の言葉を言われ、
歯切れの悪いその言葉に思わず笑ってしまう。
学園長の言葉を最後まで聞くまでに、
俺は真っ黒な闇に身を任せた。
飲み込まれる直前に、学園長にふっと微笑む。
"俺って、…最初から最後まで要らない子なんですね。"
なんて、分かっていたのに。
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作者名：いのさき。 | 作成日時：2021年1月23日 8時
