一日だけ、恋をした。

13 ページ13

どうしたら楽になれるのか、なんて聞くだけ野暮な事だった。

だけど本当にその選択をして良いものなのか…万が一にも俺の解釈が間違っていたら困ると敢えて口に出して反応を窺うことにした。



「……っ…俺が…触れば…忘れられる？」
「っ…」
「嫌な感触…上塗りできるのか？」
「…っ…藤ヶ谷が…いい…」
「……」



本当に自分なんかが触れてもいいのか。
余計北山を怖がらせてしまうだけじゃないのか。
そう思い躊躇していると、北山は何を思ったのか無理に笑みを浮かべて俺から距離を取ろうとした。



「っ……ごめ…無理なら…いい。
無理強いさせたら…あいつと同じだもんな…」
「そんな事ない」
「……っ」
「あんな奴と、お前が同じ事なんか無いよ」



本当に触っていいのかと目を見て確認して、ゆっくりと頷いたのを見届けて、俺は北山の背中に手を伸ばした。

少し力を込め引き寄せると、北山は静かに俺の胸に凭れ顔を埋めた。
やがて北山の手が同様に俺の背に回され、ハァ…と湿った息を吐き出していた。



「忘れさせてやるから」
「……ぅん」



少しだけ身体を離して見つめ合う。
そっと頬に触れると北山は静かに目を閉じた。



撮影で手を繋いだり肩が触れたりする事はあるけれど、こんな風に触れるのはもちろん初めてで…

しかも相手はずっと一緒にいる北山。
今更何か特別な感情なんて抱くはずも無いのに、どうしてだろう…北山の事が愛おしいと感じている自分が確かに存在していた。

指でスリ…と頬をなぞると、北山の肩がピク…と反応した。



「ごめん、嫌だった？」
「っ…んーん、平気…」
「嫌だったら…ちゃんと言えよ？」
「うん」



嫌じゃないから…と、目を合わせて恥ずかしそうに微笑んで、そしてまた目を瞑った。
フルフルと震えている睫毛が綺麗だなんて、思う日が来るとは想像もつかなかった。

確か…顎に手掛けられてたよな…。

指をゆっくりと下ろして顎に手を掛ける。
ん…っ…、と声を漏らす北山にドキッとした。



「……」
「っ…！？」



指が、唇に触れた。

14→←12

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す