一日だけ、恋をした。

12 ページ12

「…きたやま？」



魘されている…

枕元の明かりを点けると、北山は寝苦しそうに何度も首を振りながら小さな声で呻いていた。
起こした方がいいだろうと肩を揺すると、やがて小さく悲鳴をあげてハッと目を覚ました。

荒い呼吸をしながら俺と目が合い、やがてふぅ…と息を吐いた。



「大丈夫か？だいぶ魘されてたけど…」
「あぁ…悪い…起こしたよな…」
「それは構わないけど…、平気？」
「ん……」



寝付きが良くて朝まで滅多に起きないと言っていた北山がこんな風になるのが少し心配で水を手渡して様子を見ていると、起き上がりグラスの中身を飲み干して、嫌な夢を見た…と呟いた。



「…昼の、変な男に絡まれた時…、藤ヶ谷が来てくれなくて襲われた夢…」
「っ…」
「はは…ほんと、さいあく…」



カタカタと小さく震える指先が目に留まり考える間もなく包み込むように握った。
ピク…と指先が反応し少し青褪めた顔色で俺を見つめてきた。



「ごめんな…助けてやれなくて」
「なっ…そんな、夢にまで謝らなくたって…。
お前は…ちゃんと助けてくれたじゃんか」
「でも…」
「嘘でも…、俺のだって…言ってくれた」
「っ…聞こえてたの！？」
「う…、うん…」



──Never hit on my own.
(俺のモノに手を出すな)



聞こえているはずがないと思った。
あんな恥ずかしい事を聞かれていたなんて。

みるみる顔に熱が溜まる俺を他所に、北山は嬉しかったけどねなんて呟いている。



「あの時の藤ヶ谷…すげぇかっこよかった」
「っ…、あ…あんま揶揄うなよ」
「揶揄ってなんかいないって。藤ヶ谷が来てくれて…俺、すげぇ安心したんだ…」
「北山…」
「…っ…あ…あれ…何だこれ…、ちょ…わり…っ」



知らない場所で、自分より大柄な見ず知らずの男に抑えつけられて、どれだけ怖かっただろう…

男だって女だって関係ない。
男だからこそ、何で自分なんかにって訳がわからなくなって得体の知れない恐怖が襲い掛かるのは当然の事だ。



夢を見た事で感情が一時的に昂ぶってしまったのだろう…急に泣き出してしまった北山を何も言えずに見守っていると、北山は途切れ途切れになりながら、昼間触られた感触が消えない…気持ち悪い…助けてくれって…、俺に向けて懇願した。

13→←11

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す