Tresure box 〜藤北〜

最後の日 ページ5

リアル。切なめ。藤←北
恋人未満。




sideKi




手を伸ばせばすぐ触れられる距離にいつでもいるのに触れていい理由が見つからない。






『はい、じゃあ次は背中合わせでカメラ目線ちょうだい』



注文通り相棒の背に背中を向けてカメラに目線をやって顔を造ると、満足そうにシャッターが次々に押されていく。
もう慣れたもんだなと表情を何パターンか変えていく内、少し体勢をずらしたところで背中にトン…と温もりが触れた。



「あ、悪い」
「別に……」



特に何も気にしていないようで、会話は一言のみに止まり撮影は続いていく。



背中…触れた…

たったそれだけのできごとが、やけに鼓動を速める。



「…どうかした？」
「え？」
「次、正面向き合ってって」
「あ、あぁ」



撮影の指示があれば躊躇無く触れられるこの身体に、仕事って理由以外で触れられる術はないものかと考えるようになってから、どれだけの時が過ぎただろう。
決して叶うはずが無いと分かっていながら、いつまでも未練たらしくただ目の前の男一人を想い続ける俺は、なかなか一途な奴だと自分でも思う。

それは賞賛に値するようなものではなくて、滑稽だと嘲笑うほどの…



『北山くん、表情硬いよ〜』

「っ、すんませんーっ」



いけない、今は仕事中だ…。
気持ちを切り替えて目の前の相棒、藤ヶ谷と向き合う。

藤ヶ谷はいつも以上に眉間に皺を寄せて俺を見ていた。
向けられるのはいつも、そんな表情ばかりだ。

他のメンバーには屈託ない笑顔を向けるくせに、どうして俺にはいつもそんな不機嫌そうな顔になるのか…始めの内は結構真剣に悩み考えたりもしたけれど、そんな時期もとうに過ぎた。



「悪い、ちゃんと集中するから」
「…ん」



それだけで伝わる、唯一無二の相棒。
それだけでいいじゃないか、だって俺たちはこの先もずっと一緒にいられる。
何も特別なことなんて望まなくたって、藤ヶ谷は俺から離れたりなんてしない。



…それでいいじゃないか。

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