Tresure box 〜藤北〜

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「…なに？」
「あー…」



うー…あー…と、煮え切らない態度で視線を外し頬を掻く仕草は公私混同をしてもいいものだろうかとでも考えているのだろう。
やがて、ま…いっかと何かを吹っ切ったように今度はサラリと俺の髪に優しく触れた。



「寝顔、かわいかったから」
「…お前ほどじゃないと思う」



相変わらず自分の可愛さ分かってないんだから。



「分かってんでしょ？…藤ヶ谷不足なの」
「…っ」



くるくると指を髪に巻き付けてボソッと呟くたったひと言に、呆れるくらいに気持ちが高揚する。
グイと手を引っ張って布団の中に引き摺り込むと、北山は分かりやすく狼狽えた。



「ちょ、ばっ、おまっ…」
「なーぁに？」
「見られたら…っ」
「5分だけ」



ぎゅうっと抱きこんで空気いっぱい吸い込むと、北山の匂いで包まれる。
密！ディスタンス！と、距離感ばかり諭されてウンザリする一年だったけど、束の間の恋人時間くらいは大目に見てほしい。



「…ね、キスしてい？」
「だめ」
「えー？」
「仕事中」
「はぁい」
「……ハァ、…帰ったらな」
「…！」



しょうがねぇなぁと呆れた風に笑う余裕そうに見える歳上の恋人。
でも俺が想いを告げたあの日、子どもみたいに顔をぐしゃぐしゃにして泣きながらうんうんと頷いた顔を俺はずっと忘れる事はないだろう。



色々あった。

この一年、ほんとに色んな事があったから。

そんな中でも決して報われる事は無いと信じて疑わなかったこの想いが繋がったあの瞬間、ありきたりだけどもうこれ以上何もいらないと思った。



それなのに。



初めて北山からの好きだと言葉を貰えた日。
仕事じゃ無しに、抱きしめたあの日。
お互いの熱を確かめ合った日。

これ以上無いと思っていた幸せが都度更新されていく。

幸せなのに、怖いと感じる夜もあった。
そしてその怖さをも乗り越えて、今がある。

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